米国で排出量上昇、中国で減少の動き

― 最新データと報道の比較分析

2025年上半期(1~6月)において、アメリカ合衆国と中国という世界最大級の二酸化炭素(CO₂)排出国で、従来とは異なるトレンドが報告されています。この動きは再生可能エネルギーの導入やエネルギー市場の変化などを反映しており、各国・研究機関・メディアがその意義と継続可能性をどう見ているかも注目されています。


最新データ:何がどれだけ変化したか

以下は研究機関/データトラッカーが示す主要な数字です。

国・地域期間排出量の変化主な要因
アメリカ2025年1~6月(前年同期比)+4.2% 上昇石炭火力の利用復活、電力需要の増加、天然ガス価格の上昇など。短期の気候変動や政策の変化が影響している可能性。 (theenergymix.com)
中国同期間約 −2.7% 減少(Carbon Monitorデータ)/約 −1.0% 減少(CREA等)再生可能エネルギーの設備が急速に増加、電力部門での石炭使用の減少、建設・鉄鋼・セメント産業など高排出業種の活動低下など。 (theenergymix.com)

例えば、Carbon Monitor によれば、アメリカでは前述の +4.2% の上昇、中国では −2.7% の減少という数字が出ています。 (theenergymix.com) CREA(Centre for Research on Energy and Clean Air)の分析でも、中国は上半期で約1%の減少を見せており、電力部門での排出量減少が主因とされています。 (Reuters Japan)


日本語報道/中国国内発信の取り扱い

この変化に対して、日本・中国の報道は次のような視点を持って伝えています。

日本の報道

  • Reuters日本語版 は、CREAのデータを紹介し、「中国の CO₂ 排出量、上半期は1%減少」という見出しで伝えています。中国の太陽光発電の急増が主因とされ、電力部門での排出が3%減ったことにも言及。 (Reuters Japan)
  • Newsweek日本版 や Livedoorニュースなどでも同様の内容が報じられ、再生可能エネルギーの増加や電力業界の排出量減少が中心的な説明要因。中国の建築材・鉄鋼などの産業での活動低下も挙げられています。 (ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト)
  • ただし、日本の報道ではこの減少が「今後も続くか」「他のセクターで逆戻りがあるか」「政策の実行力はどうか」といった疑問・慎重な見方を含む記事が多いです。

中国国内の発信

  • 政府関係発言や国内メディアの報道では、この減少傾向を「再生可能エネルギー拡大」「電力ミックスの改善」「非化石エネルギー比率の向上」など政策成果と結びつけて強調する内容が多く見られます。
  • たとえば、省庁が炭素排出権取引制度(ETS)強化の方針を示したり、風力・太陽光などの発電設備容量の増加や、建築材産業などでの活動の鈍化が減少の要因として挙げられている。 (Reuters Japan)
  • 中国側発信では、「CO₂排出量そのものの絶対的な減少」よりも「排出強度(GDP比)」「非化石エネルギー比率の改善」「長期的なピークアウトへの道筋」が言及されることが多い。

専門家の見方と警戒点

報道だけでなく、複数の研究機関・専門家が以下のような点を指摘しています:

  1. 短期の変動要因
     気温・気候の変動、電力需要の季節的増減、燃料価格の変動などがデータに影響を与えている可能性。これらが継続すると予測しにくい。中国においては、乾季・湿期の水力発電量の変動も影響する。 (Carbon Brief)
  2. セクター間のばらつき
     たとえば化学産業や石炭を使った化学品生産(coal-to-chemicals)のような分野では、排出量が上がっているという報告があり、これが中国全体の排出量減少を打ち消す可能性があるという懸念。 (Reuters)
  3. 政策・制度の継続性
     再生可能エネルギー設備の急速な増設は有望ですが、送電網整備、補助金制度、規制の一貫性など制度的障害が残る可能性がある。また、石炭火力の再稼働・新設の動きも一部で見られることから、政策が緩むと排出量が再び増加するリスク。日本語報道でも中国の石炭火力発電所認可が増える傾向についての記事があります。 (Reuters Japan)
  4. ピーク排出量の時期に関する見通し
     中国政府は 2030年までに排出ピークを迎える意向を表明しているが、研究者の中には「2025年あたりでピークが既に近づいている可能性がある」という見方をする人もいる。とはいえ、完全にピークアウトしたかどうかを確定するには、今後数年のデータが必要とされています。 (World Economic Forum)

総合判断と展望

この「米国上昇・中国減少」の報告は、データとしては複数の信頼性の高い研究・観測プロジェクトによって支持されており、「過去のパターンに対する反転」の兆しと見ることが可能です。ただし、以下の点を念頭に置くことが重要です:

  • 数字の変動が持続するかどうか。半年〜1年のデータではノイズ(短期要因)の影響を強く受けやすい。
  • 増加している分野(化学産業など)が将来の増排の波を引き起こす可能性。
  • 政策・制度の実行力が鍵。補助金・規制・インフラ投資が伴わないと、勢いが落ちるかもしれない。
  • 国際的な気候目標(例:パリ協定、カーボンニュートラル目標等)との関係で、これらの変化がどの程度貢献するか。

結論

  • 2025年上半期のデータは、米国が CO₂ 排出量を増加させ、中国が減少させたという「転換の兆し」を示している。
  • 日本のメディアではこの傾向に対して比較的慎重な報じ方がされ、中国側発信では政策成果としてポジティブに強調される傾向が強い。
  • ただし、この動きが「構造的に持続する」ものか、「政策的に信頼できるもの」かどうかには、今後の数年分のデータの積み上げと分析が必要ではある。

エビデンス元(参考 URL)

  • “中国の CO₂ 排出量、上半期は1%減 太陽光発電急増で” — ロイター日本語版 (Reuters Japan)
  • CREA による “China’s carbon dioxide emissions dropped 1% in the first half of 2025” — ロイター英語版 (Reuters)
  • “U.S. Emissions Rise, China’s Fall, in Massive Shift …” — The Energy Mix 記事より (theenergymix.com)
  • Carbon Brief の分析 “China’s emissions were down 1.6% year-on-year in the first quarter of 2025 …” (Carbon Brief)

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