欧州が繊維廃棄物削減の新ルールを採択

繊維廃棄物問題と新連合の挑戦
欧州連合(EU)は 2025年9月、繊維や食品廃棄物に関する拡大生産者責任制度(EPR)を採択しました。これにより、ブランドや小売業者はEU市場に繊維製品を供給する場合、使用後の衣料などを収集・選別・再利用またはリサイクルする義務を負うことになります。しかし、現実にはそれを支えるインフラが十分に整っておらず、規制だけが先行して空回りする懸念が残っています。
こうしたギャップを埋めようと、材料再生企業 Reju を中心に、欧州内の繊維バリューチェーンを構成する企業12社が新たに「European Circular Textile Coalition(欧州循環型繊維連合)」を立ち上げ、マニフェストを発表しました。
この連合は、規制と現場を架橋する役割を果たすことを企図しており、以下のような骨格をもつ三本柱を掲げています:
- 欧州域内での競争力ある繊維チェーン構築
製造・再生拠点を欧州域内に戻すことで、環境・労働基準を担保しながら持続可能性を強化する。 - 高品質な繊維‐繊維リサイクル(textile-to-textile)の優先
ポストコンシューマー繊維を主要な原料とし、旧来の産業廃棄物や未使用ストック品ではなく、実際に消費された繊維の循環を重視する。 - 再生繊維含有率の義務化
ブランドに対して、製品に占める再生繊維の割合を段階的に引き上げる義務を課すことで、市場での需要を生み出す。
Reju の CEO パトリック・フリスクは、規制ばかり整えても「システムの準備」がなければ機能不全に終わると警鐘を鳴らしています。連合メンバー企業には、Resortecs、Caleo、Les Tissages de Charlieu、Synergies TLC、Nouvelles Fibres Textiles、Sympany、European Spinning Group、Ariadne、Erdotex、Utexbel、Noyfil などが名を連ねています。
欧州では年間約 1,260 万トンの繊維廃棄物が発生しており、そのうち衣料品に再利用される割合はわずか「1%」にとどまります。残りは埋立、焼却、または輸出されています。この低循環率が、今回の議論の背景にあります。
世界各地の報道・論点整理
以下、主要な報道・業界メディア、技術解説の視点を整理しました。
業界・専門メディアの論調
- FashionUnited はこの新連合を「より強固なリサイクル政策を後押しする存在」として位置づけています。連合が強調する「投資と整備なき規制では空振りになる可能性」や「再生繊維需要創出」が核心的テーマとして報じられています。
- Innovation in Textiles も三本柱を整理しながら、EU に対して「規制意図と実装インフラをかみ合わせよ」という訴えを紹介しています。
- Business of Fashion は、EU が成立させた EPR 規則の詳細(ブランドが廃繊維回収・選別・再利用にかかる費用を負担する義務)を報じ、「Fast Fashion ブランドにはより重い負荷がかかる可能性」を指摘しています。
- edie(EU 環境系メディア) は、EU 議会が繊維 EPR を採択し、加盟国は夏までに EPR スキームを導入する義務を負う見込みであることを伝えています。
- Renewable Matter は、繊維廃棄物がビジネス機会でもあるとの視点から、市場規模や技術的可能性を分析。「繊維廃棄物は毎年 100 億キログラム規模、繊維 1 kg あたり 2〜3 ユーロ相当」と推定し、ポテンシャルを強調しています。
技術・制度解説の視点
- Vogue Business(過去記事) において、「ファッションの繊維リサイクル市場はそもそも成立していなかった」とする批判的論調が紹介されています。実際には収集・仕分け→輸出→焼却・埋却が中心で、テキスタイル・トゥ・テキスタイル再生は極めて限定的であったと論じられています。
- SGS などの認証・試験機関は、EPR 導入後に発生する実務上の課題(費用負担、スキーム設定、ブランド間の調整など)を詳細に解説しています。
- 技術面では、混紡繊維の分離、前処理、解繊・再ポリマー化などが主要なボトルネックとして指摘されています。化学リサイクル技術は期待されつつも、コストや投入原料の品質管理が課題です。
リスク・懸念点
以下が、各論調で共通または繰り返される懸念点です。
- 再生繊維は現時点でコストが高いため、ブランドが価格差を吸収できるかが課題
- 分別・前処理インフラ不足が進展を阻む(混紡、生地の汚れ、付加的な装飾など)
- 規制と実装時期が合致しない場合、制度が空転する恐れ
- ブランド・小規模事業者にとっての負荷・事務負担が増す可能性
- 規制の国別実装の一貫性がなく、加盟国間で不公平感が生じる恐れ
日本における報道状況
EPR 制度全体や、EU の規制動向については日本のメディアや政府系機関(たとえば JETRO)が解説しています。ただし、今回の「European Circular Textile Coalition(欧州循環型繊維連合)」発足や、そのマニフェストを詳しく論じた記事は、日本語メディアには確認できていません。制制度動向解説と比べると、具体的な連合の設立・提言内容に関する報道は、まだ入り込んでいないようです。
総評と今後の注目点
この連合の設立は、規制だけでは解決できない「実装ギャップ」に対して産業側が主体を取る試みとして注目すべき動きです。規制導入だけでは空振りに終わる可能性があるため、インフラ整備・投資促進・市場形成という三段階がうまく連動するかどうかが鍵となります。
今後特に注視すべき点は:
- 各国の EPR 制度実装スケジュールと設計(費用負担方式、除外規模など)
- ブランドや小規模事業者の参画(義務化 vs 任意選択)
- 技術開発動向とその商業化(特に混紡対応・化学リサイクル効率向上)
- 再生繊維含有率義務化の水準設定と柔軟性
- 日本やアジア圏での類似制度・産業動向との連動
Note に載せる記事としては以上になります。
エビデンス(参考資料)
- Vogue Business “Could this coalition fix Europe’s mounting textile waste challenge?”
- PR Newswire “The new European Circular Textile Coalition calls for a circular textile economy: ‘a world without waste is possible’”
- FashionUnited “New European Circular Textile Coalition advocates for more robust recycling policy”
- Innovation in Textiles “New coalition wants EU action on recycling”
- Business of Fashion “EU Finalises Rules to Make Fashion Pay to Clean Up Textile Waste”
- edie “EU finalises long-awaited food waste targets and EPR scheme for textiles”
- European Commission “Strategy on textiles”
- Renewable Matter “Europe Eyes Billion-Dollar Opportunity in Textile Waste Recycling”
- Vogue Business “Fashion’s textile recycling problem? It doesn’t exist”
- Vogue Business “Meet the players vying to get textile-to-textile recycling off the ground”