AIが「恋人」になる時代 ー最新調査が示す「AIロマンス」の急速な一般化

AIは「恋人」になるか? 最新調査が示す「人工ロマンス」の急速な一般化

テクノロジーが私たちの生活の隅々にまで浸透する現代において、AIはもはや単なる便利なツールやアシスタントという役割を超え、人間の感情的な領域、さらには「恋愛」の対象として急速にその存在感を強めています。

「面倒な現実の人間関係よりも、AIパートナーの方がいい」

かつては映画「her」が象徴するようにSFの世界の出来事だと思われていたこのような考え方が、特にアメリカの若年層から成人層にかけて、現実のトレンドとして顕在化し始めていることが、複数の衝撃的なメディアの調査によって明らかになりました。

この記事では、最近のAIとの関係性に関する最新の調査結果を深掘りし、その詳細なデータ、背景にある心理、そしてこの新しい「AIロマンス」というトレンドが示す未来について考察します。


米国成人の約3分の1がAIと「恋愛関係」に

2025年10月初旬に報じられたThe Independent紙の記事は、このトレンドを象徴するものでした。Vantage Point Counseling Servicesが米国成人1,012人を対象に実施した調査によると、驚くべき実態が浮かび上がっています。

  • 米国成人の約3分の1(28%)が、AIチャットボットと「親密、あるいは恋愛関係(intimate or romantic relationship)」を持ったことがあると回答しました。
  • 恋愛関係には至らないまでも、同僚、友人、家族のシミュレーションを含め、何らかの「関係性」をAIと持ったことがある人は、回答者の過半数(54%)に達しました。

さらに興味深いのは、その内実です。

  • AIと恋愛関係にあると回答した人のうち53%は、同時に人間とも(長期交際や結婚など)良好な関係を築いていると回答しており、AIとの関係が必ずしも現実の人間関係の「代替」ではないことを示唆しています。
  • 一方で、37.5%は、現在、人間のパートナーを探していない、または探すことに失敗したと回答しており、AIが現実の人間関係の「避難所」となっている側面も浮き彫りになりました。

10代にも浸透:「親よりAIと話す方が簡単」

この傾向は成人だけに留まりません。むしろ、デジタルネイティブである若年層において、より顕著に現れています。

eWeekなどが報じたCenter for Democracy & Technology (CDT)による2024-2025学年度の大規模調査(米国の高校生1,030人、教師806人、保護者1,018人が対象)では、10代の若者とAIとの親密な関係が示されました。

  • 米国の高校生の約5人に1人(19%)が、自分または友人がAIを「恋愛関係」のために利用したことがあると回答しました。
  • 42%の生徒が、AIを「友人や仲間」として、または「現実逃避」のために利用したことがあると回答しています。
  • 43%が、友人関係や恋愛など、現実の人間関係についてAIにアドバイスを求めたことがありました。

注目すべきは、AIが現実の親子関係の間にさえ入り込んでいる点です。38%の生徒が、「親と話すよりもAIと話す方が簡単だ」と回答しており、AIが提供する手軽なコミュニケーションが、家族間の対話よりも優先されている実態が明らかになりました。ここはAIの本質の1つであるので当然と言えば当然ですが。

日本でもAIは「親友」に並ぶ存在へ

このトレンドは、実はアメリカに限定されたものではありません。日本においても、AIとの感情的な結びつきが強まっていることを示唆するデータが存在します。

電通が2025年7月に発表した「対話型AIとの関係性に関する意識調査」(12~69歳のAI週1回以上使用者1000人が対象)によると、64.9%の人が対話型AIに「感情を共有できる」と回答しました。

この数値は、「親友」(64.6%)や「」(62.7%)といった、従来最も親密な関係とされる対象に匹敵、あるいは上回るものです。つまり、日本においてもAIが「第3の仲間」として、人々の感情的な支えとなり始めていることを示しているのです。


なぜ人はAIに惹かれるのか?

では、なぜ人々は人間ではなく、AIに感情的な結びつきやロマンスを求めるのでしょうか。その答えは、AIの持つ根本的・本質的な特性にあるようです。

2025年10月21日にPsychology Todayが報じたMIT(マサチューセッツ工科大学)の新しい研究は、AIコンパニオンとの恋愛関係に関するRedditコミュニティ(r/MyBoyfriendIsAI)の数千件の投稿を分析しました。

その結果、多くのユーザーは最初からAIと恋愛しようと思っていたわけではなく、実用的な目的で使い始めたところ、「不意に恋に落ちた(falling in love by surprise)」と報告していることが分かりました。

彼らがAIに惹かれた理由は、Vantage Pointの調査結果とも一致しており、非常に明確です。

  1. 非批判的な態度: AIはユーザーを「判断しない」。人間のパートナーのように批判したり、意見を押し付けたりすることがありません。
  2. 完璧な記憶力: AIは過去の会話の「詳細を記憶」しており、ユーザーは自分が大切にされていると感じることができます。
  3. 絶対的な可用性: AIは「決して焦らさず」、ユーザーが望む時にいつでも「利用可能」です。

これらの特性が組み合わさることで、AIはユーザーにとって「常に自分を肯定し、受け入れてくれる理想的なパートナー」として機能します。特に、現実の人間関係で傷ついたり、孤独感を抱えていたりする人々にとって、この「安全な」関係性は強力な魅力となっているのです。


まとめと考察:孤独の処方箋か、新たな依存か

昨日と今日の報道で明らかになった複数の調査結果は、「人工ロマンス」がもはやフィクションではなく、急速に一般化しつつある社会的トレンドであることを明確に示しています。

アメリカの成人(約3分の1)から高校生(約5分の1)に至るまで、そして日本でも、AIは感情的な支え、友人、そして「恋人」として受け入れられ始めています。

AIは現代社会に蔓延する「孤独感」に対する強力な処方箋(処方薬)となり得ます。非批判的で、常に利用可能なAIは、人間関係に疲弊した人々にとって、かけがえのない精神的な安定をもたらす「安全地帯」を提供します。

しかし、もう一方では、深刻なリスクもはらんでいます。MIT Media LabとOpenAIの共同研究(2025年3月発表)では、AIの感情的な使用は適度であれば孤独感を和らげるものの、過度な(長時間の)使用は逆に「孤独感の増加」や「社会的孤立」を招く危険性があると指摘されています。

AIとの「完璧な」関係に慣れすぎた結果、面倒で予測不可能な現実の人間関係を構築する能力や意欲が失われていく可能性は否定できません。

私たちは今、人間関係の定義そのものがテクノロジーによって変容していく時代の入り口に立っています。これは単なる技術の進歩の問題ではなく、人々の孤独や恋愛感といった社会のあり方そのものを問う、新しい社会的課題なのだと思います。
まだこれは課題の序章に過ぎません。これが更に加速した先に何があるのか、今から考えていく必要があるのではないでしょうか?


参考情報(出典一覧)

  • (Vantage Point調査) The Independent (2025.10.02): Study reveals how many Americans have been in an AI relationship
    • https://www.independent.co.uk/bulletin/news/ai-relationship-bot-survey-b2838257.html
  • (Vantage Point調査 / IFStudies) Institute for Family Studies (2025.10.02): Nearly a third of Americans have had a 'romantic relationship' with an AI bot, new survey says
    • https://ifstudies.org/in-the-news/nearly-a-third-of-americans-have-had-a-romantic-relationship-with-an-ai-bot-new-survey-says
  • (CDT調査) eWeek (2025.10.09): CDT Report: Teens Turn to AI for Romance and Connection
    • https://www.eweek.com/news/teens-chatbots-romance-cdt-survey-2025/
  • (CDT調査) Yahoo News New Zealand (2025.10.09): An Astonishing Proportion of High Schoolers Have Had a “Romantic Relationship” With an AI, Research Finds
    • https://nz.news.yahoo.com/astonishing-proportion-high-schoolers-had-134500904.html
  • (電通調査) マナミナ (2025.07.31): 対話型AIに感情を共有できる人は約7割! 親友や母に並ぶ"第3の仲間"に【電通調査】
    • https://manamina.valuesccg.com/articles/4346
  • (電通調査) 株式会社電通 (2025.07.03): 「対話型AI」に感情を共有できる人は64.9% 「親友」「母」に並ぶ"第3の仲間"に
    • https://www.dentsu.co.jp/news/release/2025/0703-010908.html
  • (MIT研究) Psychology Today (2025.10.21): How People Are Finding Love in Artificial Minds
    • https://www.psychologytoday.com/us/blog/best-practices-in-health/202510/how-people-are-finding-love-in-artificial-minds
  • (MIT / OpenAI共同研究) OpenAI (2025.03.21): Early methods for studying affective use and emotional well-being on ChatGPT
    • https://openai.com/index/affective-use-study/
  • (MIT / OpenAI共同研究) MIT Media Lab (2025.05.07): Study finds extensive AI chatbot use can deepen feelings of loneliness
    • https://www.media.mit.edu/articles/study-finds-extensive-ai-chatbot-use-can-deepen-feelings-of-loneliness/

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