2025年10月 米国で過去20年ぶりの人員削減急増

米国で過去20年ぶりの人員削減急増(AIが雇用を奪う)

AI、自動化、コスト圧力が重なる「構造的転換期」、公式雇用統計が欠けた中で見える兆し


はじめに

2025年10月、米国企業による人員削減の発表数が、過去20年以上で最悪の水準となりました。
とりわけテクノロジー企業を中心に大規模なリストラが相次ぎ、「AIが雇用を奪い始めた」「不況の前兆だ」といった見方が広がっています。

しかし現時点では、米国労働統計局(Bureau of Labor Statistics:BLS)による公式な雇用統計が発表されていません。
政府機関の一部閉鎖が続いており、10月分の雇用者数や失業率など、基礎データが存在しない状況です。
そのため今、私たちが頼りにしているのは、チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマス社(以下、チャレンジャー社)による「削減発表データ」や、民間調査機関の推計、そして各企業の発表です。

本稿では、一次情報に基づいて次の3点を整理します。

  1. チャレンジャー社のデータが示す10月の実態
  2. テクノロジー企業を中心とした大量解雇の動向
  3. 公式統計が欠ける中で、この数字をどう信頼し、どう読み解くべきか

1. チャレンジャー社の10月レポートが示す事実

チャレンジャー社が2025年11月6日に発表したレポートによると、主要な事実は以下のとおりです。

  • 10月の人員削減発表数:153,074人
    前年同月の55,597人から約175%増加しました。
    「10月」としては2003年以来の高水準であり、20年以上ぶりの規模となります。
  • 年初から10月末までの累計:1,099,500人
    前年同期比で約65%増。2020年以来の高水準です。
  • 業種別の削減状況
    倉庫・物流分野が47,878人と最多、テクノロジー分野が33,281人と続きました。
    パンデミック期に急拡大した分野で、過剰雇用の是正と構造再編が同時に進んでいることがうかがえます。
  • 削減理由の内訳
    最多は「コスト削減」で50,437人。
    これに次いで「AI(人工知能・自動化)」が31,039人で、理由別で2位となりました。
    AI関連の削減は年初来で48,414人に達し、前年を大きく上回っています。

さらに、2025年通年では「DOGE Impact」と呼ばれる政府関連の歳出削減・組織再編が最大要因として位置づけられています。
これは連邦機関やその受託企業の構造改革を背景とするもので、AIやコスト削減と並ぶ構造的圧力といえます。


2. テクノロジー企業の大量解雇

パンデミック後の「構造再編フェーズ」へ

10月の数字が強い注目を集めた背景には、アマゾンやインテルなど、象徴的な大手テック企業による削減が重なったことがあります。
主な動きは以下のとおりです。

  • Amazon(アマゾン)
    2025年10月末、コーポレート部門を中心に世界で約14,000人の削減を実施。
    生成AIや自動化への投資を拡大するためのリソース再配分とされています。
  • Intel(インテル)
    半導体部門の業績不振と拠点統合を背景に、2025年内に約20,000人削減する計画を進行中。
    同年7月時点で「20%削減」を目標に掲げ、再構築を進めています。
  • Microsoft(マイクロソフト)
    2025年上半期に約6,000人の削減を実施。生成AI開発やクラウド部門への集中を目的とした組織見直しを行っています。
  • Salesforce(セールスフォース)、Meta、Alphabetなど
    大手テック各社でも、人員最適化・AI投資へのシフトを理由とした削減が相次ぎました。
    特に営業やバックオフィス、重複領域の再構成が進められています。
  • UPSやFedExなど物流大手
    パンデミック後の需要減少に加え、自動倉庫や配送ロボット導入による「省人化」が進行しています。

このように、2025年のテック産業は「拡大」から「効率化・集中」への段階に入りました。
単なる業績悪化ではなく、AI・自動化・クラウド最適化を前提とした経営構造への更新が進んでいます。


3. 削減理由の背景

AI・コスト・マクロ環境が同時に作用

チャレンジャー社のデータおよび主要報道を総合すると、2025年の削減増加には以下の複合要因が関与しています。

  1. コスト削減と高金利の影響
    FRBの利上げが続く中で企業の調達コストが上昇し、利益率改善のために固定費削減が求められています。
  2. パンデミック期の過剰能力の調整
    物流・EC・テックなどは2020~2022年に急拡大し、その反動で組織縮小と再配置が進行中です。
  3. AI・自動化の導入加速
    10月の削減理由でAIが2位となったことは、業務効率化とコスト圧縮の両面から、企業がAIを「実装段階」で活用し始めたことを意味します。
    顧客サポート、開発、管理業務などで、AIが既存職務の置き換え要因として顕在化しています。
  4. 政府・財政関連の要因
    「DOGE Impact」に代表される歳出削減は、連邦機関と受託企業に直接影響し、民間雇用にも波及しています。

AIが注目を集めていますが、実際にはこれらの要因が複雑に絡み合い、構造的な「雇用の再配置」が進んでいるのが実態です。


4. 公式統計が欠ける中での信頼性評価

チャレンジャー社のデータは、長年にわたり上場企業の削減発表を追跡してきた信頼性の高い統計です。
数字自体(153,074人、1,099,500人)は事実として正確です。

ただし、次の3点を理解しておく必要があります。

  • 実際の雇用減少とは異なる
    チャレンジャー社の数字は「削減発表数」であり、「実際に解雇された人数」や「純雇用減少数」ではありません。
    実際の失職数はこれより少ない場合も多く、配置転換や再雇用で吸収されるケースもあります。
  • BLSの雇用統計が欠落している
    政府機関閉鎖により、2025年10月の公式雇用統計は発表されていません。
    したがって、非農業部門雇用者数や失業率の変化は現時点で不明です。
  • 民間データによる補完
    民間調査(ADP雇用レポート、失業保険申請件数など)は、雇用創出の鈍化を示しつつも、急激な崩壊は示していません。
    現在のところ、「緩やかな悪化」といえる範囲にとどまっています。

つまり、チャレンジャー社のデータは「労働市場の警告灯」としては非常に有用ですが、公式統計の代替にはなりません。
方向感を示す信号として読み取り、今後のBLSデータ公開時に照合することが不可欠です。


5. 考察

量から構造へ。静かに進む「雇用の再設計」

2025年10月のデータが示すのは、単なる「雇用の量の減少」ではなく、「雇用の構造の変化」です。

1. テックと物流に現れた構造転換

テック企業ではAI・自動化によってバックオフィスや定型業務が削減され、
物流分野では自動倉庫・ロボティクス導入による省人化が進行中です。
いずれも「AIを導入するための解雇」と「AIに置き換えられる解雇」が同時に起きています。

2. AI要因の過大評価への警戒

AIは確かに効率化を進めていますが、それは既存のコスト削減や業績圧力を正当化する名目にもなり得ます。
「AIで15万人が職を失った」と断定するのは誤りです。
実際には、AIが企業再編の加速装置として作用している段階です。

3. 公式統計の欠如がもたらす不透明さ

政府閉鎖により雇用統計が発表されていない今、基準となるデータが存在しません。
このため、雇用市場の全体像が「見えない」まま議論が進んでいるのが現状です。
慎重さを欠くと、実態以上の悲観、あるいは楽観に傾くリスクがあります。

4. 今後への視点

テクノロジー・物流・製造など、産業横断的に「再編と再教育」が進むと考えられます。
AIが労働を置き換えるのではなく、仕事の中身を再定義している——。
この変化を的確に捉え、どのスキルが次世代に必要とされるのかを考えることが、今後の政策・企業戦略の鍵となるでしょう。


参照元


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