中国Z世代の「エモーショナル消費」が急拡大。月949元を支える孤独・AI・推し活の正体とは

中国Z世代の「エモーショナル消費」が急拡大。月949元を支える孤独・AI・推し活の正体とは

1. 何が起きているのか(一次情報)

中国のソーシャルアプリ「Soul(ソウル)」と上海青年研究センターは、「2025 Generation Z Emotional Consumption Report(2025年Z世代エモーショナル消費レポート)」を共同で発表しました。Min News

このレポートの特徴的な事実は次の通りです。

  • 調査対象は2千338人。約7割がZ世代に該当
  • ほぼ9割の若者が「感情価値のためにお金を払った経験がある」
  • そのうち約4割は「頻繁に」感情目的の消費を行う
  • 平均月額支出は949元(約130ドル)で、約18パーセントは月2千元超を投じている
  • 感情消費の頻度として、2割が「ほぼ毎日」、4割強が「週に数回」と回答
  • 消費のピーク時間帯は「深夜」と「仕事の合間」。通勤や昼休みなど細切れ時間の利用も多い

男女差も明確です。女性は「自分へのごほうび」「気分転換」といった自己ケア志向が強く、男性は「理解されたい」「受け入れられたい」「話題づくり」など、承認やアイデンティティ表現としての消費が目立つと報告されています。Min News

また、所得が低い層ほど感情消費へのニーズが高いことも示されており、「月の可処分所得が5千元以下」の層に需要のピークがあると分析されています。Min News


2. 各メディアはどう報じているか

2-1. BeautyMatter「リテールセラピーとAIコンパニオン」

ビューティ系ビジネスメディアのBeautyMatterは、このレポートを基に「中国Z世代は、買い物やブラインドボックス、AIコンパニオンを感情ケアのツールとして使っている」と報じています。ビューティーマター

記事では次のようなポイントが強調されています。

  • 95年以降生まれのユーザーの9割超が「感情価値を重視する」と回答
  • 感情ニーズに紐づく消費は前年比16.2パーセント増
  • 背景には、孤独感や都市生活のストレスがある
  • 消費は「物質的満足」から「心理的・社会的な空白を埋める手段」に変化している

ブランドにとっては、「機能」ではなく「所属感、承認、安心感」をどう提供するかが競争軸になると結論づけています。

2-2. KrASIA「ハッピー消費と合理性の両立」

スタートアップメディアKrASIAは、「Gen Z blends joy and reason in shopping」という短い記事で、レポートのポイントを次のように要約しています。KrASIA

  • 若者の消費を定義するキーワードは「ハッピーのために払う」
  • 感情消費のトップカテゴリは「旅行」で、36.9パーセント
  • その次にデジタルコンテンツやクリエイティブ関連の支出が続く
  • ただし、多くのZ世代はシングルズデー(独身の日 11/11)の支出を増やしつつも、価格比較や値ごろ感のチェックも欠かさない

つまり、「感情のために積極的に払うが、同時に冷静に値段も見る」という、感情と合理性が同居した消費スタイルとして描いています。

2-3. 南華早報(SCMP)「ぬいぐるみとAIが心の支えに」

香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは、「中国Z世代はぬいぐるみとAIに感情的支えを求めている」と題した記事で、上記の調査を引用しつつ、次のように報じています。南華早報

  • 95年以降生まれの9割超が、消費の中で感情価値の重要性を認識している
  • ぬいぐるみ、コンサート、キャラクターグッズ、AIチャットボットなどが「感情の相手」として選ばれている
  • 家族や地域共同体のつながりが弱まる中で、「物」や「デジタル存在」が寂しさの受け皿になっている

Z世代のメンタルヘルスと消費が直結し始めているという視点が強いのが特徴です。

2-4. 人民日報・RetailAsia「感情を満たすことが64パーセントの決め手」

中国の国営メディア人民日報は、より広い世代も含む調査として「中国人消費者の64パーセントが、購買の際に感情的充足を重視している」と報じています。人民日報オンライン

これを紹介するRetailAsiaは、Z世代を中心に
「キャラクターぬいぐるみ」「テーマ性のある記念グッズ」「ブラインドボックス玩具」
といったアイテムが、喜びをもたらしながらも過度な大量消費にはつながりにくい形で支持されていると分析しています。Retail Asia

2-5. Jing Daily「バズワードとしての『感情消費』」

ラグジュアリーと中国市場を扱うJing Dailyは、中国の若者まわりの流行語を整理する記事の中で、「感情消費(情緒消費)」を一つのキーワードとして取り上げています。Jing Daily

ここでは、

  • 仕事や人間関係のストレスを和らげるための「自分を再び育て直す」という発想
  • 村カフェや推し活、セルフケア商品など、「自分の感情を立て直す」ための消費スタイル
  • この流れに対して、一部で依存や浪費を懸念する声があること

といった、文化的・倫理的な側面も含めて論じられています。


3. 事実から見える構造変化

各社の報道を重ねると、「Z世代のエモーショナル消費」には少なくとも三つの構造的な変化が見えてきます。

3-1. 「機能価値」から「感情価値」へのシフトが数字で裏づけられた

かつて感覚的に語られていた「エモい消費」が、定量データとして可視化されました。

  • 9割前後が「感情価値を重視」
  • 感情ニーズに紐づく支出は前年比二桁増
  • 月平均949元という、無視できない支出規模

これは、感情価値が「おまけ」ではなく、購買動機の中核に来ていることを示しています。Min News+1

3-2. 孤立と不安の「代償」としての消費

複数のメディアが共通して指摘するのは、背景にある孤独感や不安の強さです。ビューティーマター+2南華早報+2

  • 都市化による地縁・血縁の希薄化
  • 競争的な教育・職場環境
  • 将来不安

その空白を埋める手段として、ぬいぐるみ、キャラクターグッズ、ライブ、AIコンパニオンなどが選ばれています。
消費が「コミュニケーションの代替」や「自己肯定の補助輪」の役割を担い始めている点は、ほぼ全ての報道で共通しています。

3-3. 低所得層とデジタルネイティブで強まる「感情のための支出」

レポートでは、月の可処分所得が比較的少ない層ほど感情消費への需要が高いとされています。Min News+1

これは、物質的な豊かさというよりも、

  • 日々のストレスの強さ
  • 安定した人間関係の希薄さ
  • スマホとアプリに常につながっている生活環境

といった要因の方が、感情消費の強さに関係していることを示唆しています。


4. 日本への示唆

日本でもZ世代や若年層の「推し活」「ごほうび消費」「体験へのシフト」は広く観察されています。今回の中国のデータと報道は、次のような示唆を与えてくれます。

  • 若年市場では、「役に立つかどうか」より「気分がどう変わるか」が決定打になりつつある
  • プロダクトそのものよりも、そこに紐づくストーリーやコミュニティが重視される
  • メンタルヘルスや孤独感へのケアと、消費体験が強く結びついている

一方で、報道の中には「過度な小確幸依存(小さいけれど確かな幸せ)」「感情消費への過剰依存」への懸念の声もあります。ビューティーマター+1

企業や自治体がこの潮流に乗る際には、

  • 不安をあおって消費を促すのではなく
  • 自己理解や人とのつながりを支える方向に設計すること
  • プロダクトが感情依存を深めすぎないよう、バランスを取ること

が求められていくと考えられます。


5. まとめ

一次情報と各メディアの報道を総合すると、「Z世代のエモーショナル消費」は一過性のトレンドではなく、社会構造の変化を映す現象だと言えます。

  • 孤立と不安が強まる環境の中で
  • 感情を立て直し、自己を確認するための手段として
  • 物や体験、デジタルサービスに「感情の役割」が求められている

この現実を前提に、企業や社会がどう寄り添い、どう守るのか。
そのバランスを模索することが、これからのマーケティングと政策の大きなテーマになっていきます。


参照URL

  1. Soul jointly released the Z generation emotional consumption report, outlining the youth consumption landscape
     https://min.news/en/news/6f2a9d36b67a96c7e4e8aacfc2855d80.html
  2. China’s Gen Z Turn to Spending, Retail Therapy, and AI Companions for Emotional Value | BeautyMatter
     https://beautymatter.com/articles/chinas-gen-z-turn-to-retail-therapy
  3. Gen Z blends joy and reason in shopping | KrASIA
     https://kr-asia.com/pulses/158258
  4. Why China’s Gen Z is turning to plush toys and AI for emotional support | South China Morning Post
     https://www.scmp.com/business/article/3327457/why-chinas-gen-z-turning-plush-toys-and-ai-emotional-support
  5. Emotional consumption becomes a growing market trend for generation Z in China | People’s Daily Online
     https://en.people.cn/n3/2025/0206/c90000-20273043.html
  6. China’s Gen Z drives shift to emotional, sustainable spending | RetailAsia
     https://retailasia.com/news/chinas-gen-z-drives-shift-emotional-sustainable-spending
  7. What China’s viral phrases of 2025 say about Gen Z | Jing Daily
     https://jingdaily.com/posts/what-china-viral-phrases-of-2025-say-about-gen-z

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