Googleの新機能「File Search Tool」で、RAGに何が起きたのか

1. まず「何が起こったのか?」
2025年11月6日、Googleは公式ブログで
「Gemini API に新しい File Search Tool を追加した」と発表しました。blog.google
ポイントは一言でいうと、
「自分のPDFやWordファイルなどを、ほぼそのままAIに読ませて質問できる“土台”を、全部まとめてGoogleが用意した」
ということです。
Google自身は、この機能を
・Gemini APIに直接組み込まれた
・完全マネージドな RAG(Retrieval-Augmented Generation)システム
として紹介しています。blog.google+1
2. そもそも「RAG」とは?
RAGは
・「AIに、あらかじめ用意した資料を検索させてから答えさせる」やり方
の総称です。社内マニュアルやレポート、議事録などを元に
・「この仕様書の内容をまとめて」
・「この契約書のポイントだけ教えて」
といった質問をしたい時に使われます。Venturebeat
これまでは、このRAGをちゃんと動かすには、
・ファイルを保存する仕組み
・文章を小さなかたまりに分ける処理
・意味を数値に変える「埋め込み(Embedding)」
・似た文章を探すベクターデータベース
・見つけた文章をAIのプロンプトに差し込むロジック
など、いくつもの部品を自前で組み合わせる必要があり、
・「エンジニアリングが大変」
・「壊れやすく、運用も重い」
と多くのメディアが指摘してきました。Venturebeat+1
3. Googleの「File Search Tool」は何をしてくれる?
Google公式情報と技術記事をまとめると、File Search Tool は次のようなことを
「全部まとめて、裏側で自動的にやってくれるサービス」
です。クラスメソッド発「やってみた」系技術メディア | DevelopersIO+4blog.google+4Android Central+4
・ファイルをアップロードして保存
・中身を自動で小さなかたまり(チャンク)に分割
・意味を表すベクター(埋め込み)を生成
・ベクタ検索で、質問に関係が深い部分を見つける
・見つかった部分を、Geminiへのプロンプトに差し込む
・そして「どのファイルの、どの部分を根拠に答えたか」を引用として表示
対応しているファイル形式は、公式ドキュメントや記事によると、
・PDF
・DOCX
・TXT
・JSON
・主要なプログラミング言語のソースコード
など、よく使われるものが含まれています。blog.google+2Android Central+2
料金モデルもシンプルで、
・「最初にインデックスするときの埋め込み生成」にだけ課金
・料金の目安は、100万トークンあたり0.15ドル(gemini-embedding-001)
・その後の検索や問い合わせでは追加課金は発生しない
と説明されています。Android Central+1
つまり、
一度まとめて「読み込み料」を払えば、あとはその資料を何度質問に使っても追加料金がかからない
というイメージです(あくまで現時点の公表内容ベース)。
4. 世界のメディアはどう見ているか(良い評価)
4-1. 「自前で組んでいたRAGを、まとめて置き換えるかもしれない」
テック系メディアの VentureBeat は、
・「従来の企業向けRAGは、部品が多くてエンジニアリングが大変」
・「Googleの File Search は、それを一つのAPIにまとめてしまう」
と伝え、「企業が自前で組んでいたRAGスタックの一部を置き換えうる」と評価しています。Venturebeat+1
また、RAGに詳しいニュースレターやブログも
・「RAGの工業化を象徴するAPI」
・「RAG 2.0 の流れを代表するサービス」
といった表現で、RAGの標準部品化が一歩進んだ例として取り上げています。Analytics Vidhya+1
RAG領域にディスラプションが起こるということになります。
4-2. 「自分の信頼できるデータを簡単につなげる」
Android Central など、より一般ユーザー寄りのメディアは、
・「Geminiが、ユーザーの信頼できるデータソースに簡単にアクセスできるようにするツール」
として紹介しています。記事では、
・保存、チャンク分割、埋め込み、コンテキスト注入を自動でやってくれる
・どの文書を根拠にしたかが引用で分かるので、検証しやすい
・最初のインデックス料金だけで、その後の問い合わせは無料
といった点が「分かりやすいメリット」として説明されています。Android Central+1
4-3. 開発者コミュニティの反応
開発者向けブログやチュートリアルでは、
・「ベクタデータベースを自分で用意しなくてもRAGが組める」
・「数分で、ドキュメントQAボットを作れる」
といった実践的な評価が多く出ています。Analytics Vidhya+2Analytics Vidhya+2
具体的には、
・Analytics Vidhya の記事は「RAGを構築する簡単な方法」として、Pythonチュートリアル付きで紹介
・Google公式の開発者ブログは、ポッドキャストの文字起こしデータを File Search に入れて質問できる例を紹介
など、「とりあえず使ってみた」記事が増えています。Analytics Vidhya+2JOBIRUN+2
5. どこが「画期的だ」と言われているのか(事実ベースで整理)
各種メディアや技術ブログの表現を整理すると、主な「画期的ポイント」は次の三つです。
5-1. RAGの面倒なところを、ほぼ全部まとめてくれた
複数の記事が共通して
・「チャンク分割も、埋め込みも、ベクタDBも、もう自分で準備しなくてよい」
・「検索パイプラインを抽象化してくれる」
と書いています。Analytics Vidhya+2note(ノート)+2
これは、RAGをやろうとして一度でも構成図を描いた人にとっては、大きな変化です。
RAGの「一番きつい下回り」を、Google側のサービスに預けられるようになった、という点が「ゲームチェンジャー」として扱われています。Venturebeat+1
5-2. 料金モデルが素直で分かりやすい
公式情報と日本語の解説記事は、
・「最初のインデックス時の埋め込み生成だけ課金」
・「クエリ時のストレージと埋め込み生成は無料」
・「100万トークンあたり0.15ドル」という具体的な単価
を繰り返し説明しています。MiraLab.inc+3Android Central+3note(ノート)+3
多くのクラウドサービスが複雑な料金体系になりがちな中で、
・「最初に読み込み料を払えば、あとは問い合わせ無料」という構造が比較的理解しやすい
点も、メディアから評価されています。
5-3. 「どの資料を根拠にしたか」が分かるようにしている
Google公式や複数の記事は、
・File Searchの回答には「引用(citations)」が付き、どのドキュメントに基づいて答えたかが分かる
と説明しています。blog.google+2Android Central+2
これは
・「AIの答えを、後から人間が検証できるようにする」
方向性の機能であり、企業や組織にとっては、
・内部監査や説明責任の観点から重要な点だ、と解説する記事も見られます。MiraLab.inc+1
6. ただし「何でもこれでOK」ではない、という冷静な指摘も
ポジティブな記事が多い一方で、慎重な指摘もいくつか共通しています。
6-1. まだ「Public Preview」で、正式版ではない
Googleのリリースノートと利用規約では、File Search Tool は
・2025年11月6日時点で「Public Preview」
・SLA(サービス品質保証)の対象外
・仕様変更や終了の可能性あり
とされています。blog.google+2Venturebeat+2
これを受けて、日本語の詳細解説記事などは
・「PoCや社内ツールには良いが、すぐに基幹システムで全面採用する段階ではない」
というトーンで注意喚起しています。note(ノート)+2クラスメソッド発「やってみた」系技術メディア | DevelopersIO+2
6-2. チューニングや制御の自由度には限界がある
技術レビュー記事では、
・チャンクの切り方やスコアリングなどは基本的にブラックボックス
・独自のメタデータ検索や複雑な権限モデル、カスタムランキングが必要な「高難度RAG」には、そのままでは対応しきれない
といった指摘が出ています。Analytics Vidhya+2クラスメソッド発「やってみた」系技術メディア | DevelopersIO+2
6-3. スケールと容量の制限がある
複数の技術記事は、公開されている制限値をもとに、
・1ファイル100MB前後
・プロジェクトごとのストア数や容量に上限あり
と整理し、
・超大規模な企業全体の文書資産を、単一の File Search だけで扱うのは現実的でない場合もある
と説明しています。Analytics Vidhya+2Analytics Vidhya+2
6-4. セキュリティ・コンプライアンスの検討は必須
Medium や日本の解説記事では、
・ファイルや埋め込みがGoogleのインフラ上に保存されること
・Preview機能には地域や契約プランによる制約があること
を踏まえ、特に
・金融、医療、公共分野
・EUなど厳しいデータ保護規制がある地域
では、法務・セキュリティ担当と相談したうえでの利用が必須だと述べています。note(ノート)+2MiraLab.inc+2
7. 一般の人向けにまとめると?
事実と報道内容だけを踏まえて、あえてごくシンプルに言い直すと、
・Googleは、Gemini用に「自分の資料を読ませて質問させるための土台」を、丸ごとセットで提供し始めた
・多くのメディアや技術者は、「今まで面倒だったRAGの下回りを、かなり楽にしてくれる画期的な仕組み」だと評価している
・一方で、「まだお試し版の段階」「大規模・高度な用途では制約も多い」といった冷静な指摘もはっきり出ている
という状況です。
つまり、
「RAGを試したり、小〜中規模の用途で使ったりするための標準装備に一気に近づいたが、
すべてのRAGシステムをこれ一つで置き換えられる段階ではない」
というのが、現時点での世界のコンセンサスだと整理できます。
参考URL(一次情報・ニュース・技術記事)
【一次情報・公式】
Google 公式ブログ「Introducing the File Search Tool in Gemini API」
https://blog.google/technology/developers/file-search-gemini-api/
File Search | Gemini API ドキュメント
https://ai.google.dev/gemini-api/docs/file-search
Tools overview(File Search の位置づけ)
https://ai.google.dev/gemini-api/docs/tools
Gemini API リリースノート
https://ai.google.dev/gemini-api/docs/changelog
【ニュース・解説記事】
VentureBeat「Why Google’s File Search could displace DIY RAG stacks in the enterprise」
https://venturebeat.com/ai/why-googles-file-search-could-displace-diy-rag-stacks-in-the-enterprise
Android Central「This new API tool helps Gemini tap into your trusted data sources」
https://www.androidcentral.com/apps-software/ai/this-new-api-tool-helps-gemini-tap-into-trusted-data-sources
Analytics Vidhya「Gemini API File Search: The Easy Way to Build RAG」
https://www.analyticsvidhya.com/blog/2025/11/gemini-api-file-search/
npaka「Gemini API の File Search Tool の概要」(note)
https://note.com/npaka/n/n8526f1a5909e
クラスメソッド「Gemini APIのFile Search ToolでRAG構築が楽になるらしいので試す」
https://dev.classmethod.jp/articles/gemini-api-file-search-tool-rag/
MIRALAB「Gemini APIに完全管理型RAGシステム『File Search』が登場」
https://miralab.co.jp/media/gemini-api-file-search/
Jobirun「[開発者向け]Gemini APIに『File Search Tool』登場:RAG構築の自動化」
https://jobirun.com/gemini-api-file-search-tool-automated-rag-system/
【関連情報・コミュニティ投稿】
Reddit「Introducing the File Search Tool in Gemini API」
https://www.reddit.com/r/Bard/comments/1oqadxg/introducing_the_file_search_tool_in_gemini_api/
LinkedIn・X での VentureBeat 記事紹介ポスト
https://x.com/VentureBeat/status/1986571470877683879
https://x.com/siddarthpaim/status/1988091935320600708


