「AIが理由のレイオフ」が統計に現れた ー雇用の地殻変動はもう始まっている

「AIが理由のレイオフ」が統計に現れた。雇用の地殻変動はもう始まっている

はじめに

「AIで仕事がなくなる」という話は、ここ数年さんざん語られてきました。

しかし多くの人にとって、それはどこか遠い未来の物語だったと思います。
「本当にそんな日が来るのか」「結局は大げさな話なのではないか」と感じていた方も多いはずです。

ところが今、アメリカの雇用データの中に、
はっきりと「AIを理由にしたレイオフ」が数字として現れ始めました。

2025年10月、アメリカ企業が発表した解雇人数は、
この22年間で最悪の「10月」になりました。
そして、その理由の第2位に挙がったのが「AI」です。

この記事では、まず一次情報として何が起きたのかを整理し、
次に、主要メディアがどう分析しているのかをまとめます。
最後に、日本の企業・自治体・働く一人ひとりにとって、何を考えるべきかを考えていきます。

1. 一次情報で見る「AIレイオフ」の実像

1−1. 過去22年で最悪レベルの「10月」

アメリカで長年レイオフ統計を出している
Challenger, Gray & Christmas 社のレポートによると、
2025年10月に発表されたレイオフ(解雇)人数は次の通りです。

  • 2025年10月のレイオフ発表人数:153,074人
  • 前月(9月)54,064人から約183パーセント増
  • 前年同月(2024年10月)55,597人から約175パーセント増

同社の統計では、
これは「2003年以降で最も多い10月のレイオフ」だとされています。

また、2025年1〜10月の累計レイオフ発表人数は約109万人に達し、
2020年のパンデミック期以来の高い水準になっていると報告されています。

1−2. レイオフ理由の第2位が「AI」

同じレポートの中で、特に注目されているのが「理由の内訳」です。

2025年10月単月で見ると、
企業が公式に挙げたレイオフ理由は次のようになっています。

  • 第1位:コスト削減(50,437人)
  • 第2位:AI(人工知能)関連(31,039人)

さらに、2025年1〜10月累計では、
AIを理由にしたレイオフは48,414人分に達したとされています。

重要なのは、この数字が

  • 特定の一社ではなく、多数の企業によるレイオフ発表の合計であること
  • 企業側が「AI導入」「自動化」をレイオフ理由として公式に説明している事例が増えていること

です。

1−3. 影響を受けている業種

Challenger の統計や、それを引用するメディアの報道を総合すると、
レイオフが目立つ業種としては次のような領域が挙げられています。

  • テクノロジー関連
  • 倉庫・物流
  • 小売
  • サービス業

個別企業レベルでは、

  • UPS(数万規模の人員削減)
  • Intel、Microsoft、Amazon、Salesforce、Meta などの大手テック企業

が、大規模なレイオフ計画とともに、
AIや自動化を理由の一つとして挙げているケースが報じられています。

ただし、これらはあくまで「発表された理由」であり、
後ほど触れるように、実際の要因は複合的だという指摘もあります。


2. 報道内容の整理:AIは「真犯人」か「言い訳」か

一次情報で見える数字は、大枠では各メディアで共通しています。
しかし、その解釈や論調には違いがあります。

大きく分けると、次の二つの視点が見えてきます。

  1. AIが雇用を削り始めている現実として捉える視点
  2. AIが「便利な説明」として使われている可能性を指摘する視点

2−1. 「AIによる雇用削減が現実になった」と強調する報道

Fox Business や The Economic Times、Times of India などの経済メディアは、
Challenger のデータを引用しながら、次のような点を強調しています。

  • 10月のレイオフ発表が2003年以来最悪レベルであること
  • レイオフ理由として、コスト削減に続き「AI」が第2位に浮上していること

これらの報道では、

  • 倉庫・物流やバックオフィス業務など、自動化しやすい領域で人員削減が進んでいること
  • テック企業だけでなく、他の産業でも「AI導入」とセットで組織のスリム化が行われていること

が指摘されており、
AIによる雇用削減が、いよいよ一部業種では「現実の数字」として現れているというトーンです。

2−2. 「AIはスケープゴートではないか」と疑う報道

一方で、NBC News の記事
「Tens of thousands of layoffs are being blamed on AI. What are companies actually getting?」
は、やや異なる視点を提示しています。

この記事では、

  • 多くの企業が「AI導入」を理由に人員削減を説明しているが、
    実際にAIによる効率化や収益改善がどの程度実現しているかは不透明であること
  • 一部の企業では、レイオフ発表時に「AIの変革的影響」を強調しつつ、
    後になって「AIは大きな要因ではない」と説明を修正した事例もあること

が紹介されています。

MIT の経済学者などのコメントとして、

  • 「AIによる効率化のためにレイオフする」と説明する方が、
    単に「業績悪化のため」と説明するより、株主や世論に対して受け入れられやすい
  • そのため、実際以上に「AIのせい」として語られている可能性もある

という視点も提示されています。

つまり、「AIが原因」という説明は、

  • 実際にAIが仕事を代替している部分
  • 経営側がコスト削減を正当化するための物語

の両方が混ざっている可能性がある、ということです。

2−3. マクロ経済としての位置づけ

ロイターなどの通信社は、もう少し引いた視点から、
今回のレイオフ急増を次のように整理しています。

  • 高金利と需要の減速による、景気要因の悪化
  • コスト削減圧力の高まり
  • そこにAIや自動化の導入が重なった結果としてのレイオフ増

つまり、AIだけを「真犯人」として扱うのではなく、
マクロ経済環境と企業の構造改革が絡み合った結果として見ているという立場です。


3. 日本への示唆:AI前提で「仕事の設計図」を引き直す

ここからは、上記の事実と報道を踏まえた上での、日本への示唆です。
この部分は、統計そのものではなく、そこから考えられる解釈になります。

3−1. 「AIと雇用」は、すでにデータとして語られる段階に入った

今回のニュースが示しているのは、
AIと雇用の関係が、もはや

  • 未来の仮説
  • SF的な想像

ではなく、

  • 実際のレイオフ発表
  • 統計データ

の中で語られる段階に入ったということです。

もちろん、日本とアメリカでは解雇規制や雇用慣行が異なります。
しかし、グローバル競争の中で、日本企業だけが

  • AI導入を先送りし続ける
  • 「既存の人員構成」を前提にビジネスを維持し続ける

ことが本当に可能なのか、という問いは避けられません。

3−2. 「何人削るか」ではなく「仕事をどう作り替えるか」が問われる

同時に、NBC News や専門家の指摘が示すように、
AIは「何人減らしたか」だけで語ると危うい側面もあります。

日本企業にとって重要なのは、
次のような問いに向き合うことだと考えられます。

  • どの仕事をAIに任せるのか
  • 空いた時間や人材を、どの新しい業務に振り向けるのか
  • 結果として、企業全体でどんな価値を生み出せるのか

もし「AIで人件費を削る」だけが目的になってしまうと、

  • 社内の信頼
  • 社外からの評判
  • 将来の採用力

に長期的なダメージを与えかねません。

逆に、AIを前提に仕事を再設計し、

  • 顧客理解
  • 現場改善
  • 新規事業

など、人にしかできない部分を強化する方向に人材を再配置できれば、
AI時代における日本企業の強みになり得ます。

3−3. 政策・自治体側:統計と支援策に「AI」をどう組み込むか

アメリカのケースでは、民間統計とはいえ、
レイオフの理由として「AI」が独立したカテゴリで集計され始めています。

日本でも今後、

  • どの職種・業務でAIの影響が強く出ているのか
  • どの地域で、どの年齢層が影響を受けているのか

を可視化する必要があります。

そのためには、

  • 労働統計や企業への調査設計に「AI導入の影響」という観点を入れること
  • ハローワークや自治体レベルの調査にも、業務自動化やAI活用の状況を取り入れること

が求められます。

そうしたデータがあって初めて、

  • どの職種に対するリスキリング支援を厚くすべきか
  • どの地域に対して、どのような雇用対策が必要か

といった政策判断が、より現実に即したものになっていきます。

3−4. 個人の視点:自分の仕事を「分解」してみる

最後に、働く一人ひとりの視点です。

今回、影響が大きいとされているのは、
テック企業だけではありません。

  • 倉庫・物流のオペレーション
  • 小売のバックオフィス
  • さまざまな事務・定型処理

といった業務は、生成AIや自動化ツールで置き換えやすい領域でもあります。

自分の仕事を一度「作業のまとまり」に分解してみると、

  • AIでもできる作業
  • AIと組み合わせると、もっと価値が高まる作業
  • 人間にしかできない判断・関係構築

が見えてきます。

重要なのは、
AIに仕事を奪われないようにすることではなく、

  • AIで任せられる部分を積極的に手放し
  • そのぶん、より創造的な仕事や、人にしかできない役割にシフトしていくこと

だと考えます。


参考URL一覧(一次情報・主要報道)

  1. Challenger, Gray & Christmas, Inc.
    Challenger Report October 2025
    https://www.challengergray.com/wp-content/uploads/2025/11/Challenger-Report-October-2025.pdf
  2. Challenger, Gray & Christmas, Inc.
    October Challenger Report: 153,074 Job Cuts on Cost Cutting, AI
    https://www.challengergray.com/blog/october-challenger-report-153074-job-cuts-on-cost-cutting-ai/
  3. Econofact
    Fact Check: Were announced layoffs in October 2025 the highest for any October in more than two decades?
    https://econofact.org/factbrief/fact-check-were-announced-layoffs-in-october-2025-the-highest-for-any-october-in-more-than-two-decades
  4. Trading Economics
    United States Challenger Job Cuts
    https://tradingeconomics.com/united-states/challenger-job-cuts
  5. The Economic Times
    Cost-cutting, AI lead to surge in planned US layoffs in October
    https://economictimes.indiatimes.com/tech/technology/cost-cutting-ai-lead-to-surge-in-planned-us-layoffs-in-october/articleshow/125134490.cms
  6. Fox Business
    Layoffs in October hit highest level for month in 22 years as companies cite cost-cutting, AI
    https://www.foxbusiness.com/economy/layoffs-october-hit-highest-level-month-22-years-companies-cite-cost-cutting-ai
  7. Times of India
    US layoffs reach 20-year high in October: 10 companies that cut thousands of jobs
    https://timesofindia.indiatimes.com/technology/tech-news/us-layoffs-reach-20-year-high-in-october-10-companies-that-cut-thousands-of-jobs/articleshow/125198478.cms
  8. Reuters
    Private reports suggest US labor market weakened in October
    https://www.reuters.com/markets/us/private-reports-suggest-us-labor-market-weakened-october-2025-11-06/
  9. NBC News(MIT Shaping Work 経由で紹介)
    Tens of thousands of layoffs are being blamed on AI. What are companies actually getting?
    https://finance.yahoo.com/news/tens-thousands-layoffs-being-blamed-090000385.html
    https://shapingwork.mit.edu/news/nbc-news-tens-of-thousands-of-layoffs-are-being-blamed-on-ai-what-are-companies-actually-getting/
  10. Trax Technologies
    Tens of thousands of layoffs are being blamed on AI—but where are the actual returns?
    https://www.traxtech.com/ai-in-supply-chain/tens-of-thousands-of-layoffs-blamed-on-ai-but-where-are-the-actual-returns
  11. Talking Logistics
    AI Bubble? AI Layoffs? Let’s Talk About It.
    https://talkinglogistics.com/2025/11/17/ai-bubble-ai-layoffs-lets-talk-about-it/

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