オーストラリア発 16歳未満SNS制限を世界はどう報じたか?

子どもの安全を守る政策か
デジタル参加と学びを奪う政策か
1. オーストラリアで始まったルールは何か
オーストラリアでは、16歳未満が主要SNSでアカウントを作成または維持することを事実上できないようにする制度が導入されました。利用者や保護者ではなく、プラットフォーム側に年齢制限の実施責任が置かれ、違反した場合は高額の制裁金が科され得る設計です。制度は2025年12月10日から適用されると政府機関が説明しています。
この動きは、児童のオンライン被害や精神面への影響への懸念が強まる中での制度化として各社が報じています。Reutersは、賛同する親や子ども保護の立場がある一方、テック企業や表現の自由を重視する立場からの批判もあると伝えています。
2. 類似の動きは世界にある
オーストラリアと同種の方向性として、国レベルで年齢の線引きを強める議論や制度化が複数の国で報じられています。
デンマーク
APは、デンマークが15歳未満のSNS利用を大幅に制限する方向で、2026年半ばの施行を目標に政治合意が進んでいると報じています。親が13歳から許可できる余地を設ける案も伝えられています。
ノルウェー
ノルウェー政府は、SNS利用の絶対的な年齢下限を15歳にする新法案について、パブリックコンサルテーション提案を準備していると公表しています。Guardianも2024年時点で同国が15歳下限の強化を検討していると報じてきました。
フランス
Le Mondeは、フランスが15歳未満のSNS利用について、年齢確認や保護者同意を求める法制度を承認したと報じています。Euronewsも、フランスの制度枠組みと欧州全体での議論を関連づけて報じています。
マレーシア
APは、マレーシアが2026年から16歳未満のSNSアカウントを禁止する計画を報じています。マレーシア国内報道でも2026年導入を目標とする方針が伝えられています。
EU
欧州議会は、未成年保護を強化する文脈で、EU域内の最低年齢を16歳とする方向性を求める決議を出しています。これは加盟国に対する政治的メッセージであり、直ちに統一法になるものではないとReutersが伝えています。
3. 世界の報道が整理するメリット
ここからは、報道機関や国際機関が提示する論点を、事実として整理します。なお、見立てや評価は、どの主体がどう述べたかを明示して記述します。
未成年の有害曝露を減らす
各国の政府発表や報道では、いじめ、搾取、詐欺、有害コンテンツへの曝露、過度な利用による睡眠や心身への影響が、年齢制限の主な理由として繰り返し挙げられています。ReutersやAPは、保護の観点から支持する親や子ども保護の立場があると報じています。OECDも、子どものデジタル利用がもたらす懸念として、睡眠への影響、いじめ、精神的な不調などが議論になっていることを整理しています。
家庭だけでは止めにくい圧力を制度が補助する
制度により、親が家庭内で単独に制限をかける際に生じやすい同調圧力を下げられるという論点が、報道で紹介されています。Guardianは、親の間でも歓迎と懸念が混在している状況を報じています。
プラットフォーム側に責任を移す
オーストラリアの制度は、罰則の中心を利用者ではなくプラットフォームに置き、合理的な防止措置を求める枠組みであることが政府機関の説明として示されています。これを、実効性確保の設計として報じる媒体があります。
4. 世界の報道が整理するデメリット
一方で、報道では同時に副作用の論点が大きく扱われています。特に、未成年が最先端テクノロジーや学習コミュニティに触れる機会が減るという観点は、デジタル参加や情報アクセスの問題として議論されています。
デジタル参加や学びの機会が減る可能性
UNICEFは、年齢制限だけでは子どものオンライン安全を十分に確保できないとし、禁止にはリスクがあり逆効果になり得るとする立場を表明しています。ここには、オンライン環境が学習や社会参加の機会でもあるという前提があります。OECDも、リスクを減らしつつ機会を損なわない設計が重要だという観点を整理しています。
孤立や支援コミュニティの断絶
Guardianや各種解説では、SNSが社会的つながりの手段になっている現実から、制限が孤立を深める可能性が論点として挙げられています。特に周縁化された若者にとってオンラインが情報や支援の接点になっているという指摘が報じられています。
年齢確認がプライバシーや監視の論点を拡大する
オーストラリアでは年齢確認の実装が制度運用の中心になります。ABCは、年齢確認に伴うデータのやり取りやリスクを専門家の見解として報じています。Amnesty Internationalは、子どもを守るという目的に対して、年齢確認を含む制度設計がオンライン被害を防ぐ有効策にならない可能性や、別のリスクを招く可能性があるとして批判的立場を示しています。
抜け道や地下化の可能性
Guardianは、制度開始後にVPNなどでの回避や、別のアプリへの移動が起き得ることを報じています。APも、規制対象外のアプリへ若年層が移る可能性を伝えています。制度が強いほど、若者がより規制の弱い空間へ移動するリスクが論点として扱われています。
表現の自由や政治参加のアクセス問題
オーストラリアでは、Redditが制度をめぐり司法判断を求める動きが報じられています。GuardianやAPは、年齢確認が広範に求められることでプライバシー侵害が起きる可能性や、未成年の政治的情報へのアクセスが不当に狭まる可能性が争点として主張されていると伝えています。
5. 報道上の構図
世界の報道を横断すると、議論は次の3点に収束しやすい構造が見えます。
1つ目は、安全対策の必要性については広く共有されていること
UNICEFも、現状が子どもと家族を圧迫しているという問題意識自体は共有すると述べています。
2つ目は、手段として禁止を採るかどうかで対立が生まれること
禁止は分かりやすい一方で、副作用が大きいという論点が強く出ています。欧州議会の決議も、年齢下限に加え、依存性を高める設計への対策など、設計面の介入を同時に求めています。
3つ目は、年齢確認の実装が新たな社会的コストになること
年齢確認が広がると、本人確認や年齢推定の仕組みが一般化し、プライバシーと利便性のトレードオフが大きくなるという論点が、オーストラリア報道を中心に強く扱われています。
6. ここから先に起き得ることとして各社が注目する点
ReutersやAPは、オーストラリアの動きが他国の政策議論を刺激していると報じています。欧州ではEUのデジタル規制の枠組みの上に、年齢下限の議論が重なる形になっています。アジアでもマレーシアのように国として年齢制限を明確化する動きが報じられています。
一方で、UNICEFや人権団体のように、禁止を単独策として導入することへの懸念も同時に強く発信されています。
このため、報道の焦点は、年齢という線引きそのものに加え、年齢確認の方法、抜け道の発生、未成年の学習や社会参加の機会をどう担保するか、制度開始後に何を評価指標として検証するかに移りつつあります。
以下に参照元をまとめます。
参考リンク一覧
https://www.oaic.gov.au/privacy/your-privacy-rights/social-media-minimum-age
https://www.esafety.gov.au/about-us/industry-regulation/social-media-age-restrictions
https://www.infrastructure.gov.au/media-communications/internet/online-safety/social-media-minimum-age
https://www.reuters.com/legal/litigation/australia-social-media-ban-takes-effect-world-first-2025-12-09/
https://www.theguardian.com/australia-news/2025/dec/09/australia-under-16-social-media-ban-begins-apps-listed
https://apnews.com/article/denmark-social-media-ban-australia-1e96a3df3276cc2033a6f04effb89f51
https://www.regjeringen.no/en/whats-new/norway-moves-forward-with-age-limit-for-social-media/id3108682/
https://www.theguardian.com/world/2024/oct/23/norway-to-increase-minimum-age-limit-on-social-media-to-15-to-protect-children
https://www.lemonde.fr/en/france/article/2023/06/29/france-requires-parental-consent-for-under-15s-on-social-media_6039514_7.html
https://www.euronews.com/next/2024/04/27/macron-in-favour-of-europe-wide-social-media-age-restriction-for-teens-under-15
https://apnews.com/article/malaysia-social-media-ban-under-16-1e9e20321c8c83c470ff7489139f10b8
https://www.nst.com.my/news/nation/2025/11/1321197/updated-govt-targets-2026-rollout-ban-social-media-accounts-children
https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20251120IPR31496/children-should-be-at-least-16-to-access-social-media-say-meps
https://www.reuters.com/sustainability/society-equity/european-parliament-agrees-resolution-calling-minimum-age-social-media-2025-11-26/
https://www.unicef.org/press-releases/age-restrictions-alone-wont-keep-children-safe-online
https://www.amnesty.org/en/latest/news/2025/12/australia-social-media-ban-for-children-and-young-people-an-ineffective-quick-fix-that-will-not-prevent-online-harms/
https://www.abc.net.au/news/2025-12-09/snapchat-age-verification-privacy-concerns-social-media-ban/106095510
https://www.theguardian.com/australia-news/2025/dec/12/reddit-high-court-challenge-social-media-ban-australia-under-16s
https://apnews.com/article/5d0d55e4f5668f66a5a3eed8f841d1ed
https://www.oecd.org/en/blogs/2025/06/too-young-to-scroll-why-governments-are-cracking-down-on-social-media-age-limits.html
https://www.oecd.org/en/publications/children-and-young-people-s-mental-health-in-the-digital-age_488b25e0-en.html


