EUにおけるEV市場拡大ペース減速に関する調査報告

EUにおけるEV市場拡大ペース減速に関する調査報告

一次情報と国際報道に基づく背景整理
産業競争力と気候温暖化対策の両面から

1. 何が起きたか?

1-1. EUのEV政策の基本方針

EUは自動車部門を気候温暖化対策の中核分野と位置づけ、
2035年以降に販売される新車について、走行時CO2排出ゼロを求める規則を2023年に正式決定した。
この規則は、内燃機関車の新車販売を事実上終了させ、EVへの全面移行を促すものと整理されてきた。

1-2. 2035年規則に関する実施方法の見直し

2025年12月、欧州委員会は2035年規則について、実施方法を調整する提案を公表した。
報道で確認されている主な内容は以下の通りである。

  • 新車のCO2削減目標を100パーセントではなく、約90パーセントとする設計への変更
  • 残余排出分について、低炭素素材や代替燃料などによる相殺を認める方向性
  • プラグインハイブリッド車などが市場に残る余地を確保

この提案は、2035年の脱炭素目標自体を撤回するものではないが、EVのみを唯一の解とする従来の枠組みを緩和する内容として報じられた。

1-3. 2025年CO2排出目標の柔軟化

EUは2025年に設定されていた自動車メーカー向けのCO2排出目標について、
単年での達成を求める方式から、複数年平均での達成を認める方式へ変更した。
これにより、短期的なEV販売の伸び悩みが直ちに罰金などの制裁につながるリスクは低下した。


2. EV市場拡大ペースが緩められた背景

国際機関および主要報道機関は、以下の要因が複合的に作用した結果として、EUの方針修正を説明している。

2-1. EV需要の鈍化

国際エネルギー機関などによると、欧州のEV販売は2024年以降、成長ペースが鈍化した。
要因として以下が挙げられている。

  • 購入補助金の縮小や終了
  • 手頃な価格帯のEV車種の不足
  • 金利上昇や景気減速による消費者心理の変化

2-2. 充電インフラ整備の地域格差

EU全体では公共充電設備は増加しているが、加盟国間で整備水準に大きな差があることが指摘されている。
この格差は、EV購入をためらう要因の一つとして報道で言及されている。

2-3. 欧州自動車産業を巡る競争環境

報道では、欧州メーカーが以下の競争圧力に直面している点が共通して指摘されている。

  • 中国メーカーによる低価格EVの急速な拡大
  • テスラを中心とする米国メーカーとの競争
  • EV転換に伴う設備投資負担と雇用への影響

2-4. 加盟国による政治的要因

ドイツやイタリアなど主要加盟国が、産業と雇用への影響を理由に規制の柔軟化を求めたことが、
欧州委員会の提案に影響したと複数の通信社が報じている。


3. 中国および米国にEV市場を奪われる懸念に関する整理

3-1. 中国に対する競争力喪失懸念

Reuters、AP、Guardian、Washington Postなどの報道では、
EUがEV移行ペースを緩めることで、中国メーカーが相対的に優位に立つ可能性があると整理されている。

報道で示されている主な論点は以下の通りである。

  • 中国メーカーはEVの大量生産体制と価格競争力を確立している
  • 欧州でEV普及が遅れれば、技術習熟とコスト低下の差が拡大する
  • 規制緩和は欧州市場への中国EV参入を容易にする可能性がある

3-2. 米国に関する位置づけ

米国については、中国ほど直接的な市場奪取の懸念としてではなく、
競争圧力の象徴として位置づけられるケースが多い。
特にテスラは、欧州メーカーが規制緩和を求める背景説明の中で繰り返し言及されている。


4. 気候温暖化対策の減衰に対する懸念

4-1. 環境団体およびシンクタンクの反応

EUの規制柔軟化に対し、複数の環境団体や政策系シンクタンクは、
自動車部門の脱炭素が遅れる可能性について懸念を表明している。

報道で整理されている主な懸念は以下の通りである。

  • EV普及の遅れによる2030年時点のCO2削減不足
  • 規制緩和による自動車メーカーのEV投資判断の先送り
  • 規制の一貫性が失われることによる長期投資の不透明化

4-2. 国際機関による整理

国際エネルギー機関は、道路輸送部門が欧州のCO2排出削減において重要な役割を担っていると指摘している。
この文脈で、EV普及ペースの鈍化は、他部門での追加的な削減努力を必要とする可能性があると整理されている。

4-3. 欧州委員会の説明

欧州委員会は、気候目標そのものは維持すると説明しつつ、
実施方法を現実に合わせて調整するとしている。
報道では、この説明が、気候対策の後退との受け止めが生じ得ることを前提とした対応であると整理されている。


5. 総合整理

一次情報および国際報道を総合すると、
EUのEV市場拡大ペースの減速は、気候目標の放棄ではなく、
需要、インフラ、産業競争、加盟国政治を踏まえた規制実施方法の調整として位置づけられている。

一方で、

  • 中国や米国に対する長期的な競争力低下
  • 自動車部門における温暖化対策の実効性低下

という二つの懸念が、報道および専門機関によって並行して提示されている点が確認できる。


参考リンク一覧

欧州委員会
https://ec.europa.eu

Reuters
https://www.reuters.com

Associated Press
https://apnews.com

The Guardian
https://www.theguardian.com

The Washington Post
https://www.washingtonpost.com

International Energy Agency
https://www.iea.org

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