地球軌道は誰のものか? ー 15000機が示す 宇宙インフラの一社独占という現実

はじめに

2026年1月12日、SpaceXはFalcon 9ロケットを用いて、Starlink衛星29基を地球低軌道に投入した。
この打ち上げは、SpaceXにとってはすでに日常業務の一部であり、単発の技術ニュースとして見れば特段の驚きはない。

しかし、この29基という数字は、単独では意味を持たない。
問題は、それが積み重なった先に何が生まれるのか、そしてその世界に日本はどのような立場で存在するのか、という点にある。

本記事では、まず打ち上げの事実と一次情報を整理し、次にSpaceXが目指す世界像を確認する。
そのうえで、15000機という数字が示す構造的な現実と、日本の現状を一次情報に基づいて捉え直し、そこから浮かび上がる大きな懸念を示す。


打ち上げの事実 何が起きたのか

2026年1月12日、SpaceXは米フロリダ州のケープカナベラル宇宙軍基地からFalcon 9を打ち上げ、Starlink衛星29基を低軌道に投入した。
衛星は予定どおり分離され、初期運用フェーズに移行したことが、複数の宇宙監視情報から確認されている。

このミッションは2026年に入ってから5回目のStarlink関連打ち上げであり、Starlinkコンステレーション全体は約9000機規模に近づいていると推定されている。
正確な数は、運用中、投入済み、退役準備中といった定義によって変動するが、地球低軌道に存在する人工衛星の中で、Starlinkが圧倒的な割合を占めている事実は動かない。


Starlinkはどこまで拡張されるのか 15000という数字の意味

Starlinkの拡張は加速している。
SpaceXは米国の規制当局による認可のもとで運用しており、第一世代と第二世代を合わせて最大15000機規模の低軌道通信コンステレーションを前提とした拡張が進められている。
※コンステレーション(Constellation):英語で「星座」を意味し、人工衛星の分野では多数の人工衛星を連携させて一体的に運用するシステムを指す。

この15000という数字を、世界全体の文脈で見ることが重要だ。

2026年初頭時点で、世界で稼働している人工衛星の総数はおおよそ10000機前後とされている。
つまり、Starlinkが15000機に達した場合、それは

世界の稼働人工衛星全体の過半数
低軌道通信分野では7割から8割を占め得る規模

を意味する。

これは単なる市場シェアの話ではない。
地球低軌道は有限であり、特定の高度帯、軌道傾斜角、周波数帯は先に使った者が優位に立つ。
15000機という数は、使いやすい軌道空間を事実上先取りする力を持つ。


SpaceXが目指している世界

この規模を理解せずに、Starlinkを通信ビジネスとしてのみ捉えると、全体像を見誤る。

SpaceXが一貫して掲げてきた目的は、一応「人類文明を」地球という単一の拠点に閉じ込めないこととなっている。
そのために必要なのは、安価で頻繁な宇宙輸送、宇宙空間に常設された通信インフラ、そして将来的な地球外活動を支える基盤である。

Starlinkは、この構想の中核をなす。
地上インフラに依存しない通信網を宇宙側に構築することで、災害、戦争、政治的遮断といった地上由来のリスクから情報流通を切り離す。

多数の小型衛星を分散配置する設計は、壊れても全体が止まらず、常に更新できる冗長なインフラを生む。
これは、宇宙版のクラウドインフラとも言えるのではないか。

SpaceXにとって15000機という数字は、支配のためではなく、冗長性と持続性を確保するために必要な手段という位置付けに表面上はなっている。


それでも浮かび上がる現実 一社独裁に近づく構造

しかし、意図と結果は必ずしも一致しない。

15000機という規模は、結果として

軌道空間の占有
周波数利用の優先
衝突回避ルールや運用慣行の事実上の標準化

を、一企業が主導・独占する状態を生み得る。

これは政治的な独裁ではない。
だが、インフラレベルでの支配、すなわち依存構造が固定化されるリスクをはらんでいる。

過去にも、海底ケーブル、クラウド基盤、半導体製造などで、似た構図は繰り返されてきた。
先に数と規模を押さえた主体が、後発の国家や企業の選択肢を事実上制限する。

宇宙でも、同じ構造が生まれつつある。


日本の現実 量を持たない国家の立場

ここで視点を日本に移す。

日本の宇宙開発は、主にJAXAを中心に進められている。
H-IIA、H3、イプシロンなどのロケットによる打ち上げは、年間で数回から多くても十数回に届かない水準にとどまる。。。。SpaceXの数を考えると、理解不能になる。

これは技術力の問題ではない。

日本の宇宙活動は

高信頼性重視
国家ミッションや科学観測中心
大量展開を前提としない設計

という思想に基づいている。

しかし、この設計思想は、
数を前提に軌道を押さえる時代には適応していないのでは、と思わざるを得ない。


日本が直面する最大の懸念 インフラ主権の空洞化

Starlinkが15000機規模に達した場合、日本が直面するのは競争ではなく依存となってしまう。

日本は

低軌道通信コンステレーションを自前で保有していない
軌道空間の量的主導権を持っていない
周波数や運用慣行の決定で主導的立場にない

という状況にある。

その結果、日本で利用される低軌道通信インフラは

米国企業が設計し
米国の規制下で運用され
日本は利用者として接続する

という構造にならざるを得ない。

これは直ちに危険を意味するわけではないのかも知れない。
しかし、災害時、有事、国際的緊張が高まった際に、日本が自ら制御できない通信基盤にどこまで依存するのかという問いが生じる。


軌道空間の意思決定から外れるというリスク

そして深刻なのは、軌道空間そのものの意思決定に、日本がほとんど関与できていない点だ。

軌道高度や配置は、事実上

先に大量に投入した者
頻繁に打ち上げられる者

が慣行を作る。

日本は、宇宙交通管理やデブリ対策については国際的に誠実な立場を取っているが、
数を持たないために、実運用の標準作りでは発言力が弱い。

結果として、
ルールは他者が作り、日本はそれに適応する側になる
という立場に追い込まれる可能性が高い。


技術ではなく 設計思想が問われている

重要なのは、これは日本の技術力不足の問題ではないという点だ。

問われているのは、

宇宙を公共インフラと見なすのか
民間主導の競争領域と見なすのか
国家としてどこまで関与するのか

という設計思想を、日本が、いや世界がまだ明確に定めていないことにある。

SpaceXは、明確な思想とスピードを持って動いている。
一方、日本は慎重であるがゆえに、決まった世界に後から参加する側になりつつある。


おわりに

Starlink衛星29基の打ち上げは、遠い宇宙のニュースではない。
それは、地球低軌道という新しいインフラ空間が、すでに設計フェーズを終え、実装フェーズに入ったことを示している。

15000機という数字は、SpaceXの野心を示すと同時に、日本を含む各国の制度と意思決定の遅れを映し出している。
一社独裁に近づく構造は、誰かが意図的に作っているというより、決めない国、追いつかない制度の隙間に自然発生している。

問われているのは、SpaceXを止めるかどうかではない。
宇宙という共有空間を、どのような公共性とガバナンスのもとで使うのかという、人類全体の選択である。

日本に残された時間は、決して多くない。



参照情報

SpaceX・Starlink 打ち上げ・運用に関する一次情報

SpaceX 公式ミッション情報
https://www.spacex.com/launches/

SpaceX Starlink 公式ページ
https://www.spacex.com/starlink/

Spaceflight Now Starlink 打ち上げレポート
https://spaceflightnow.com/

Space.com Starlink 打ち上げ・衛星数報道
https://www.space.com/spacex-starlink-satellites-launches

Jonathan McDowell 衛星追跡データ(独立系一次情報)
https://planet4589.org/space/stats/star/starstats.html


規制・制度・衛星数上限に関する一次情報

米連邦通信委員会 FCC Starlink 関連認可資料
https://www.fcc.gov/document/fcc-authorizes-spacex-next-generation-starlink-satellites

FCC Orbital Debris Mitigation Rules
https://www.fcc.gov/orbital-debris


世界の人工衛星数・軌道環境に関する情報

Union of Concerned Scientists Satellite Database
https://www.ucsusa.org/resources/satellite-database

European Space Agency Space Debris Office
https://www.esa.int/Safety_Security/Space_Debris

ESA Annual Space Environment Report
https://www.esa.int/Safety_Security/Space_Debris/ESA_s_Space_Environment_Report


懸念・分析・国際報道

Reuters Starlink 規制・拡張に関する報道
https://www.reuters.com/world/us/

The Verge FCC承認とStarlink拡張に関する分析
https://www.theverge.com/space

Scientific American Starlinkと天文学への影響
https://www.scientificamerican.com/article/starlink-satellites-astronomy/

Nature メガコンステレーションと天文観測への影響
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2481-7

Live Science 軌道混雑と衝突リスク
https://www.livescience.com/starlink-satellites-space-debris

RAND Corporation 宇宙交通管理と軌道ガバナンス
https://www.rand.org/pubs/research_reports/RRA233-1.html


日本の宇宙開発・打ち上げ頻度に関する一次情報

JAXA 公式 宇宙輸送・打ち上げ実績
https://global.jaxa.jp/projects/rockets/

JAXA 宇宙基本計画関連資料
https://www8.cao.go.jp/space/plan/plan.html

内閣府 宇宙政策委員会
https://www8.cao.go.jp/space/


補足 国際的枠組み・公共性議論

United Nations Office for Outer Space Affairs UNOOSA
https://www.unoosa.org/

UN COPUOS 宇宙の平和利用委員会
https://www.unoosa.org/oosa/en/ourwork/copuos/index.html


\ 最新情報をチェック /