先進国で静かに進む貧困 ー働いても生活が崩れる社会構造の正体

はじめに 先進国の貧困は生活システムのバグである

先進国で進む貧困。

単に賃金が低いからでも、福祉が薄いからでもないのではないか?
これまで社会が前提としてきた生活システムが、現代の条件に合わなくなっていることによるバグなのではないか?

かつては、働けば家賃を払え、病気になっても破綻せず、家族がセーフティネットの一部を担い、年を取れば年金で暮らせた。
この生活システムが、住宅市場の金融化、インフレと金利、家族構造の変化、雇用の非正規化、移民の増加、制度の捕捉失敗によって同時に崩れている。

その結果として起きているのは、貧困の拡大というより、社会の底が抜ける新しい失速である。


1. 先進国の貧困を作る三つの駆動力

生活の固定費が先に上がり、収入が後から追う構造

賃金が上がらないというより、住宅、医療、教育、保険、交通、光熱といった固定費が先に膨らみ、収入はその後ろを遅れて追う。
このギャップが一定幅を超えると、節約ではなく破綻モードに入る。

ここで重要なのは、貧困が所得の低さではなく、固定費が強制的に強力に発生している点。
固定費は削れないので、最後に削られるのは食事、健康、教育、社会参加になる。
つまり貧困は生活の質の崩壊として先に現れ、家計破綻は後から来る。

政策も事業も、本当の戦場は賃上げだけではなく、固定費の圧縮装置にある。住宅、医療、教育、保険のいずれかを軽くできるかが国の差になる。

生活必需品の領域が広がった

昔は生活必需品ではなかったものが、次々と商品化され、価格がつき、必要なものに変わっていった。
典型は住宅、ケア、教育、データ通信、移動、保険。。。。

生活が便利になる一方、貧困層ほど高コストな商品を買わされるという側面もある。
信用が弱いとローン金利が高い。家賃保証も高い。保険も高い。遅延手数料も高い。
金融商品なども、信用に応じて優遇されるようになる。
所得が低いことより、弱い信用が課金されることで固定化する。

貧困対策は給付以外にも、信用コストの是正という方向もあるのではないか?
信用スコア、保証、分割、延滞、罰金の構造を変えないと、給付はそのギャップという穴に吸い込まれてしまう。

社会制度が人の移動速度に追いつかない

現代は、離婚、単身化、転居、転職、移民などで生活が頻繁に変わる。
しかし制度は、安定就労、安定居住、安定家族を前提に設計されている。
その柔軟なはずの生活スタイルの変化に制度はついていけておらず、社会保障の対象外になってしまう。
いわば「制度があるのに届かない」が常態化する。

これは制度の問題は厚さではなく、柔軟性、追従性の問題。
変化の多い人生に追随できる制度ほど、貧困を短期で止められる。逆に追随できない国では、困窮が慢性化する。


2. 貧困の新しい形 生活の階段が壊れている

昔の貧困は階層の底に偏っていた。
今はそれが中間層へどんどん拡大している。

住居が足場ではなくトラップになる

住居は生活の土台であるはずが、生活を圧迫するトラップになっている。
支払っても将来の資産にならず、家賃上昇で居住が不安定化し、居住地の変更を余儀なくされ、通勤や教育レベルがおち、さらに収入が不安定になっていく。

このループは、ホームレスの問題を生むだけでなく、住居不安定という問題を引き起こしている。
先進国の貧困はホームレス問題ではなく、住居の不安定化問題が原因になっていることが非常に多い。

家族が緩衝材でなくリスク増幅装置になる

単身化やひとり親の増加により、家族が支え合う設計が成立しにくい。
さらに依存症やメンタル不調、DVなどが絡むと、家族はセーフティネットではなくリスクを増幅する装置になる。

貧困は個人の問題に見えるが、実態は家族構造の変化に制度が追いついていない問題とも言えそうである。

健康状態が貧困と密接に関係する

健康状態がそのまま雇用機会、収入、信用、住居に連鎖する。
健康を害する=貧困への突入 という構造で、社会システムでカバーされるのを期待しにくい。
突然の病気・怪我はもちろん、依存症、メンタル不調なども貧困の入口になりやすい。

貧困対策は所得だけでなく、住居、家族、健康の三点セットで見ないと本質を外す。


3. 国別の差はどこで出るか 同じ貧困でも原因装置が違う

国ごとに見える現象は似ていても、貧困を作る装置が違う。装置が違うと、効く政策も違うので、各国の貧困に関する現状を見てみる。

アメリカ型

民間市場の比率が高く、医療や保険や住居が信用コストと結びつきやすい。
急激なインフレ・物価上昇に対して、それ以上の所得を維持できる層ばかりではない。少しでもその道を外れた瞬間に貧困層に落ちるという恐怖と常に隣り合わせな状況である。
また、依存症や薬物問題は、仕事の喪失、健康被害という個人の問題ではあるが、治安の悪化、地域経済への影響、地域の空洞化が連鎖する社会構造として理解した方が正確になる。
貧困は制度の薄さというより、市場経済と連動して加速するモデルとなってしまっている。

給付よりも、医療、住居、信用コストなどの要素を分断しないと止まらない。

イギリス型

給付はあるが、運用や制限が厳しく、住居費の上昇と噛み合って就労しても生活が立たない。
就労貧困が政治課題になるのは、働くことが解決にならないから。
貧困は制度の厚さではなく、制度運用と住宅費に挟まれる形で発生する。

制度の厳格化や不正対策が強いほど、捕捉できない層が増えてしまい、結果として社会コストが上がる逆転が起きやすい。

北欧や西欧の一部型

福祉は厚いが、移民統合と住宅不足が絡むと、地域に貧困が集積しやすい。移民反対など従来とは逆の動きが起こっている。貧困が政治的争点として爆発しやすいのは、福祉国家モデルが否定されることに直結してしまうからでもある。移民問題の解決が福祉国家復活につながるかどうか試されているとも言える。

貧困対策が社会統合政策そのものになる。ここに失敗すると、貧困は経済問題ではなく治安と文化戦争に変質する。

日本型

制度は存在するが捕捉が弱く、単身化と非正規化と住宅費が重なる。
貧困は見えにくい形で広がりやすい。
見えにくい貧困は政治課題になりにくく、慢性化しやすい。

見えないことが最大のリスク。支援制度の議論よりも、困窮の可視化と捕捉導線の設計が先に必要になる。


4. 貧困を固定化する仕組み

多くの先進国で共通しているのは、貧困問題への解決策が明確でなく、分断を生む争点になってしまっていることである。

争点化のメカニズム

貧困の原因は複雑で、物価高騰、住宅、医療、雇用、移民、家族、依存などが絡む。
しかし政治などの場面では単純化し、次の二項対立に落とし込みやすい。

自己責任か社会保証か
成長優先か再分配か

この単純化が進むと、現実に必要な複合政策が打てなくなる。
その結果、部分最適の政策をひたすら繰り返すことになり、貧困は構造的な解決は望めず、固定化、加速してしまう。

貧困の議論で重要なのは、善悪ではなく、なにが貧困を作っているかを合意できるか。その特定に失敗すると、政策は永遠に空回りしてしまう。


先進国の貧困は次にこう進む

貧困はさらに生活インフラ化する

貧困は所得の話から、住居、医療、教育、ケアという生活インフラの話に移る。
このインフラが崩れた国ほど、社会の分断と政治不安定が強まる。

中間層の転落が主戦場になる

物価や家賃の上昇は、底辺より中間層の生活設計を壊しやすい。
中間層の不安は政治を動かす。貧困対策が選挙の中心争点になる国は増える。

対策の勝ち筋は貧困の入口を塞ぐこと

給付で救うより、入口を塞ぐ方が効く。

入口の代表は三つ
住居不安定化
健康の破綻
家族構造の崩壊

この三つの入口をどれだけ早く止められるかが勝負である。
すぐには解決しない問題だからこそ、すぐに取り組まなければならない


参照情報一覧(一次情報・公的統計・主要研究機関)

アメリカ


カナダ


イギリス


フランス


ドイツ


イタリア


日本


オーストラリア


北欧・オランダ・韓国(横断参照)


総合的背景理解

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