世界EV市場の現状と本質的トレンド ―日本報道が見落とす構造変化

はじめに

日本国内の報道を見ていると、「トヨタのハイブリッド車が好調」「テスラが減速」というニュースが目立ち、あたかも世界全体でEVシフトが失速し、ガソリン車やハイブリッド車への回帰が起きているかのような印象を受ける。しかし、グローバル市場全体を俯瞰すると、この認識は大きく誤っている。2025年の世界EV市場は、台数ベースで過去最高を更新し、新車販売に占める電動車の比率は着実に上昇を続けている。成長ペースに地域差や一部減速の兆候はあるものの、電動化という大きな潮流は依然として力強く進行中だ。

本稿では、直近1年間(2025年〜2026年初頭)の世界EV市場動向を客観的データに基づいて分析し、日本国内にいると誤解してしまいそうなグローバル市場の本質的なトレンドを俯瞰する。


1. 世界全体: 成長は継続

表1:主要地域における2025年EV販売の概況(前年比成長率と市場シェア)

地域2025年EV販売台数 (万台)前年比成長率新車販売に占めるEV比率
世界全体約2,200万台 (予測値)+25~28%程度約25% (EV+PHEV合計)
中国1,280万台 (NEV)+17.6%約53% (NEV総計)
欧州 (EU)188万台 (BEV)+29.9%17.4% (BEV)
米国~90万台 (推定)ほぼ横ばい (~0%)約7% (推定、年末時点6.6%)
日本10.19万台 (BEV+PHEV)–0.98%2.66%

1-1. 販売台数は過去最高、シェアは約25%に到達

2025年の世界におけるEV(BEV+PHEV)販売台数は、ブルームバーグNEFの予測で約2,200万台、実績報道では前年比約28%増と、依然として力強い成長を示した。数年前まで世界の新車販売の5%未満に過ぎなかったEVは、2025年には新車全体の約4台に1台、すなわち約25%のシェアを占めるまでに拡大している。これは「EVが減速している」どころか、グローバル市場全体では電動化が加速度的に進んでいることを意味する。

ただし、成長率そのものは前年までの急拡大と比べるとやや鈍化している。これは市場が成長期から成熟期への移行段階に入りつつあることを示唆しており、今後は「EVなら何でも売れる」時代から、価格・性能・ブランド力で差別化された本格競争の時代へと移行していくことを意味する。

1-2. 地域差の拡大:中国・欧州 vs 米国・日本

世界全体の成長を牽引しているのは中国と欧州である。一方、米国と日本ではEV市場の伸び悩みが顕著だ。この地域差こそが、日本国内で「EV失速」という誤った印象を生み出している最大の要因である。


2. 地域別の実態

2-1. 中国:世界最大市場、新車の過半がEVに

2025年の中国における新エネルギー車(NEV)販売台数は約1,280万台(前年比+17.6%)に達し、乗用車市場全体(2,403万台)の約53%を占めた。これは史上初めて電動車がガソリン車の年間販売台数を上回った歴史的な転換点である。

中国市場の成長率は前年の+40.7%から+17.6%へと減速しているが、これは市場規模が既に巨大であるための自然な鈍化であり、絶対台数では依然として世界のEV販売の約3分の2を占める圧倒的な規模を誇る。年末に地方補助金の削減や低価格EV市場での競争激化による一時的な需要減退はあったものの、中国市場の構造的な電動化トレンドは揺るぎない。

2-2. 欧州:EV需要が再加速、ガソリン車を逆転

2025年のEU新車市場では、BEV新車登録台数が188万台(前年比+29.9%)と大幅に伸び、PHEVも+33.4%増と好調だった。EU全体の新車販売に占めるBEV比率は17.4%(前年13.6%)に上昇し、ハイブリッド車(HEV含む)が34.5%で最多、ガソリン車は26.6%と初めてハイブリッド車を下回った

特筆すべきは、2025年12月に欧州で初めてBEVの月間販売台数がガソリン車を上回ったことである。これは欧州市場が構造的にEVへと移行しつつある明確なシグナルだ。各国政府の購入奨励策やメーカーからの手頃な価格の新型EV投入が相次ぎ、市場が再び活気づいている。

2-3. 米国:政策転換で一時的な踊り場

米国の自動車市場は2025年に新車販売1,620万台(前年比+2.4%)と3年連続で拡大したが、EV市場は政策環境の変化により失速している。連邦政府によるEV購入補助税額控除($7,500)が2025年秋に打ち切られた影響で、年後半に需要が急減速し、2025年通年のEV販売台数はほぼ横ばいか微減となった。EVシェアも新車全体の約6〜7%程度に留まっている。

ただし、これは政策主導から市場牽引型への移行期における一時的な調整局面と見るべきである。補助金依存から脱却し、真の市場競争力を獲得する過程で、米国EV市場は短期的な停滞を経験しているに過ぎない。

2-4. 日本:世界の潮流から取り残される

日本市場におけるEV普及は依然遅れており、2025年のEV販売台数は10万1,863台と前年比0.98%減少した。新車販売全体が増加に転じた中でEVのみ2年連続の減少となり、市場シェアも2.66%(前年2.76%)に低下している。

充電インフラ不足、車種ラインナップの限界、政府の購買奨励策の弱さに加え、トヨタや日産など国内メーカーがハイブリッド車に注力してきたことが背景にある。日本の新車市場では依然ハイブリッド車が主流であり、世界の電動化トレンドから日本市場だけが取り残されている状況が浮き彫りになっている。


3. トヨタのハイブリッド好調が意味するもの

3-1. 短期的な成功と長期的なリスク

2025年、トヨタ自動車のハイブリッド車(HV)は世界的に好調であり、同社の販売拡大を牽引した。トヨタグループの世界販売台数は1,132万台と過去最高を記録し、6年連続で世界首位となった。特に北米市場でHVの販売が好調で、約126万台(全体の43%)がHVと前年比20%増加した。

この背景には、ガソリン価格の変動や環境意識に加え、EVに比べて車両価格が手頃で使い勝手に優れる点が米国消費者に支持されたことがある。欧州でもHV(含むマイルドHV)が乗用車販売の34.5%を占め最大シェアとなり、HVがEV普及を一定程度食い止める構図も見られる。

3-2. グローバルトレンドへの逆行

しかし、この成功は短期的な収益確保という点では有効だが、長期的なグローバル市場での競争力確保という観点からは大きなリスクを孕んでいる。

中国市場では既に新車の過半がEVであり、欧州でもBEVがガソリン車を逆転し始めている。トヨタのHV戦略が成功している米国や日本は、世界のEV市場全体から見れば例外的な市場に過ぎない。トヨタがHVに注力している間に、中国のBYDをはじめとする競合メーカーはEV技術とコスト競争力を磨き上げており、グローバル市場でのシェアを急速に拡大している。

トヨタ自身も長期的な電動化対応に向けてEV開発を加速する方針を示しており、2025年時点でのBEV世界販売は約19.9万台とHVの1/22規模に留まっているが、2026年以降は次世代電池を搭載した専用EVシリーズ投入計画を表明している。総じて、トヨタのHV好調は当面の収益と市場シェア拡大に寄与する一方、グローバルなEV普及ペースには抑制的に作用していると言えるだろう。


4. テスラ減速の本質

4-1. 販売減少の背景

テスラの2025年通年の世界販売台数(納車台数)は164万台となり、前年(179万台)から約8.6%減少した。これはテスラにとって2年連続の年間販売減少となり、急成長を続けてきた同社にとって大きな転機となった。

販売減速の主因は以下の3点である:

  1. 競争激化:中国のBYDが低価格帯から高級車まで豊富なEVラインナップで台頭し、2025年のグローバルEV販売において初めて年間台数でテスラを上回り世界首位となった(BYD約226万台、前年比+27.9%)。欧州メーカー(フォルクスワーゲンやBMWなど)もEVモデルを強化し、テスラの市場シェアは各地で低下傾向にある。
  2. 政策要因:米国市場では連邦EV税額控除の打ち切りがテスラに逆風となり、2025年第4四半期の米国EV販売は「補助金駆け込み需要」が剥落して前年同期を下回った。
  3. ブランドイメージの変化:イーロン・マスクCEOの言動や一部品質問題への指摘により、一部消費者のテスラ離れが報じられた。特に高価格帯市場ではテスラブランドへのロイヤルティが低下している。

4-2. テスラ減速=EV市場減速ではない

重要なのは、テスラの減速は個別企業の競争力低下であり、EV市場全体の減速を意味しないということである。実際、テスラが販売を減らした一方で、BYDをはじめとする中国メーカーや欧州メーカーはEV販売を大幅に伸ばしている。これは市場が成熟し、複数のプレーヤーによる本格的な競争時代に入ったことを示している。

テスラは将来戦略として自動運転のRobotaxiや人型ロボット開発など次世代技術へのシフトを強調し始めており、廉価な小型EV計画を後退させてAIやロボティクス分野に注力する姿勢を示している。これは「テスラは単なる自動車メーカーではなくテック企業である」との戦略転換であり、短期の販売減少を長期的なビジョンで補おうとする動きと見ることができる。


5. 中国BYDの台頭:世界市場を席巻する新勢力

5-1. グローバル首位への躍進

2025年に世界EV市場シェアを大きく拡大した企業として際立つのは中国のBYDである。BYDは2025年に世界で約460万台(NEV総計)を販売し、その内訳を見るとEV(BEV)販売が227万台(+27.9%)と好調でテスラを抜いて世界トップに立った。

特に海外市場での躍進が目覚ましく、2025年のBYDの輸出販売は104.6万台と前年比+150.7%増となり、欧州・東南アジア・中東などで急速に存在感を高めた。欧州ではBYDの2025年新車販売が12.9万台に達し(前年の約3.3倍)、テスラや欧州各社にとって脅威となっている。

5-2. 競争力の源泉

BYDの競争力の源泉は以下にある:

  • 垂直統合モデル:バッテリーから車両生産まで一貫して自社で手掛けることによるコスト優位性
  • 豊富な車種ラインナップ:低価格帯から高級車まで幅広い価格帯をカバー
  • 技術革新:独自のブレードバッテリー(LFP)による安全性とコスト競争力
  • グローバル展開の加速:新興国市場への積極的な展開

BYDの台頭により、世界のEV市場シェアは中国メーカーが2位以下を大きく引き離す状況になりつつある。


6. EU規制緩和の真意:現実的調整か後退か

6-1. 2035年目標の事実上の緩和

欧州連合(EU)は2025年末、2035年までに新車販売を全てゼロエミッション車に移行する方針を事実上緩和する新提案を打ち出した。具体的には、2035年以降もプラグインハイブリッド車(PHEV)やレンジエクステンダー車の販売が容認される見通しとなった。

この規制緩和の背景には、ドイツやイタリアを中心とした自動車産業界からの強い要望があった。欧州では2024年頃からEV需要の一時停滞や自動車部品産業の雇用不安が広がり、「移行ペースの現実的な見直し」を求める声が高まっていた。

6-2. 短期的緩和vs長期的目標

この規制緩和は二つの意味を持つ:

  1. 産業界への配慮:自動車メーカーにとって柔軟性が増し、急激なEVシフトによる収益悪化や雇用喪失リスクを抑制できる
  2. EV転換モメンタムへの懸念:規制という強制力が弱まることでEV転換のモメンタムが失われる可能性

メルセデス・ベンツやボルボなどEV専業志向のメーカーは規制緩和に反対の姿勢を示しており、「細則次第では環境メリットが相殺され、市場縮小のリスクがある」と懸念を表明している。

重要なのは、この動きがEV否定ではなく、移行ペースの現実的調整であるということだ。EUは依然として2035年にCO2排出実質ゼロという目標を掲げており、PHEVやレンジエクステンダー車の販売を認める代わりに、低炭素燃料の利用や生産時のグリーンスチール採用などで不足分を埋め合わせることを求めている。これは電動化の方向性は維持しつつ、現実的な移行パスを模索する動きと理解すべきである。


7. 技術・インフラ・政策・消費者動向の相互作用

7-1. 技術:バッテリー価格下落と次世代電池

EV普及の土台であるバッテリー技術は引き続き進歩している。リチウムイオン電池の価格は下落傾向にあり、中国勢を中心に低価格モデルの生産拡大が可能となった。一方で電池生産の急拡大に伴う供給過剰も指摘されており、2025年時点で中国のバッテリー工場稼働率は平均50%を下回る水準に低下した。

電池価格の下落とメーカー間競争の激化は、消費者にとっては価格低下という恩恵をもたらす一方、メーカー側には利益率圧迫の課題を突き付けている。また次世代技術として全固体電池の実用化が進みつつあり、2035年までに世界のEV用電池需要の10%を占めるとの予測もある。

7-2. インフラ:地域格差が普及を左右

充電インフラの整備状況は地域によって明暗を分けている。欧州や中国では高速道路網や都市部を中心に急速充電器の設置が加速し、EVユーザーの利便性向上につながっている。欧州では公共充電事業の市場規模が2025年時点で約100億ドルと推計され、2040年には2,200億ドル規模に拡大する見通しとの分析もある。

一方、米国や日本では依然として「充電器不足」が消費者の不安材料である。日本でも高速道路SAの急速充電器老朽化や設置数不足が問題となっており、政府が補助金を拡充するなど対応に乗り出した。インフラ整備が遅れるとEV購入のモチベーションが下がるため、この点が米国や日本でEVシェアが伸び悩む一因となっている。

7-3. 政策:不確実性が市場を揺るがす

政府の支援策・規制がEV市場を左右している。米国ではトランプ政権下で2025年に環境対応車税控除が打ち切られた結果、市場が冷え込む一因となった。対照的に欧州各国ではEV購入補助や税制優遇を延長・新設する動きがあり、例えばフランスやスペインは2025年に低中所得者向けEV補助を拡充した。

ただし補助金頼みの市場形成は財政負担との兼ね合いもあり、持続性が課題である。このため各国政府はインセンティブだけでなく規制や目標設定によるトップダウンの市場転換も推進している。政策の振れ幅は企業の投資計画や消費者の購買マインドに直接するため、安定した長期方針の提示が市場成長の鍵となる。

7-4. 消費者:価格と実用性がシビアに問われる時代

2025年はインフレや金利上昇も相まって車両価格に対する消費者の敏感度が増した年だった。EVはガソリン車に比べ購入価格が高めであり、各種補助金が無くなると「割高感」が意識され販売減につながる傾向が各市場で見られた。

また航続距離や充電時間への不安も依然根強く、特に単車所有で長距離移動が多い層ほどEV敬遠が残る。加えてブランド選好やユーザー体験も需要に影響する。テスラのブランド力低下が欧米で販売減に繋がった一方、BYDのように「安価でも性能十分」な新興ブランドが支持を広げている。

総じて、価格・実用性・ブランド価値が消費者の購買判断を左右し、市場の伸びを加速も減速もさせうることが2025年の動向から確認できた。「EVなら何でも売れる」時代は終わりつつあり、消費者の目は厳しさを増している。


8. 日本が認識すべき本質的トレンド

8-1. 世界の電動化トレンドは不可逆

日本国内の報道が「トヨタ好調、テスラ減速」を強調する背景には、自国企業の成功を称賛したいという心理が働いている。しかし、グローバル市場全体を俯瞰すれば、以下の事実は明白である:

  • 世界のEV販売台数は過去最高を更新し、新車の約25%がEVに
  • 中国では新車の過半がEVとなり、構造的な転換点を超えた
  • 欧州ではBEVがガソリン車を逆転し始めた
  • 米国の減速は政策転換による一時的調整であり、構造的後退ではない
  • 日本市場だけが世界の潮流から取り残されている

トヨタのHV戦略は短期的には成功しているが、中国・欧州という世界最大の2大市場では既にEVが主流になりつつある。トヨタが得意とする米国や日本は、世界のEV市場全体から見れば例外的な市場であり、この例外を基準に世界の潮流を判断するのは危険なのではないだろうか?

テスラの減速も「EV失速」と解釈するのは誤りである。実際には、競争の主戦場がガソリン車・HVからEVへと移り、複数のプレーヤーによる本格的な競争時代に入ったというのが正しい理解だと言える。

BYDの台頭、欧州メーカーのEV強化、新興国市場への拡大など、EV市場は成長期から成熟期へと移行しつつある。この過程で、技術力・コスト競争力・ブランド力で劣る企業は淘汰され、真の競争力を持つ企業だけが生き残る。トヨタも含め、全ての自動車メーカーがこの競争に晒されている。


まとめ

日本国内の報道が伝える「トヨタ好調、テスラ減速、EV失速」というナラティブは、グローバル市場の一部を切り取った偏った見方に過ぎない。世界全体を俯瞰すれば、EV市場は引き続き成長を続けており、電動化という構造的トレンドは不可逆である

トヨタのHV戦略は短期的な成功をもたらしているが、中国・欧州という世界最大の市場では既にEVが主流になりつつあり、日本市場だけが世界の潮流から取り残されているように見えてしまう。テスラの減速は個別企業の競争力低下であり、EV市場全体の減速を意味していない。
むしろ市場が成熟し、複数のプレーヤーによる本格的な競争時代に入ったことを示している。

日本が世界の潮流から取り残されないためには、HV成功に安住せず、EV競争力の強化を急ぐ、もしくは全くの別軸で新たな市場を創っていく必要があるのではないだろうか。

参照情報

📊 グローバルEV市場・統計・リサーチ


🇨🇳 中国市場・BYD・政策


🇪🇺 欧州:EU政策・普及状況


🇺🇸 米国:EV政策・企業動向


🇯🇵 日本:EV普及・トヨタ動向

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