英国で起きた「蓄電ニュース」は、エネルギー全体像の設計思想が切り替わるサインか?


はじめに

2026年1月、英国デボン州で一つの実証サイトが「フル出力達成」と報じられた。主役は電池でも水素でもなく、「高密度水力」と呼ばれる長時間蓄電技術である。
このニュースを単独で読めば、新しい蓄電方式が一つ実証された、という技術トピックに見える。しかし、英国の制度設計と合わせて眺めると、意味ははるかに大きい。

結論から言えば、英国で起きているのは「電池の代替探し」ではなかった。
蓄電=電池という固定観念そのものが、再エネ時代の電力システムに合わなくなり、解き方が「単一技術」から「ポートフォリオ設計」へ移行しているのではないか?。
リチウムイオン電池が万能で、あらゆる領域での議論が全て、そのことを無意識に当たり前なこととして進んでいる様に感じる。
その転換が、実地の稼働ニュースとして見え始めているのではないか?
ここでは、この世の中で当たり前と思われている部分を掘り下げてみようと思う。


1. きっかけ:高密度水力の実証稼働?

今回の起点は、RheEnergiseが、英デボン州Cornwoodで進めていた実証プロジェクトについて、「設計通りのフル出力に到達した」と発表したことだ。(URLは記事最後掲載)
ここで注目すべきは、単なる出力値ではない。

この技術は、揚水発電と同じく「位置エネルギー」を使うが、水より密度の高い流体を用いることで、
・標高差が小さい場所でも
・従来より小規模な地形で
成立しやすくする、という狙いを持つ。

つまりこれは「電池を大型化する」方向ではなく、

地形条件に合わせて「別の貯め方」を用意する

という発想である。
重要なのは、これが研究段階ではなく、「実際に動いた」という形で報じられた点にある。稼働ニュースは、技術が社会実装の入口に立ったことを意味する。


2. 英国は長時間蓄電市場を作り始めた

しかし、この話を一社の技術ニュースとして扱うと本質を見誤ってしまうと感じる。
英国では同時に、「長時間蓄電(LDES)」を増やすための制度が動き出しているのだ。

英国の規制当局Ofgemは、LDES向けの支援制度(Cap & Floor方式)に対して、171件の応募があったと公式文書で明記している。しかも、「幅広い技術(wide range of technologies)」と、最初から多様な方式が前提になっている。

さらに、英国政府も、最終採択が2026年夏に行われる予定であることを公表している。
つまり英国では、

・制度が用意され
・案件が集まり
・一部が実証・稼働フェーズに入った

という「市場形成」の三段階がそろい始めている。

この構造を押さえると、RheEnergiseのニュースは「珍しい技術が一つ出た」話ではなく、
制度の下で電池以外の長時間蓄電が群として立ち上がり始めた兆候として読める。


レアメタルなどを必須としてしまう

リチウムイオン電池からの脱却

を狙っているとも言えるのではないか


3. 「貯める技術」について

ここで、エネルギーを「貯める」技術を全体像として整理する必要がある。
ポイントは、「何に変換して貯めるか」で分類することだ。

貯める技術は大きく三系統に分かれる

  1. 電気として貯める(電気→電気)
     リチウムイオン電池、全固体電池、ナトリウムイオン電池、フロー電池など。
  2. 力学・物理状態として貯める(電気→位置・圧力・相変化)
     揚水発電、圧縮空気、液体空気、重力蓄電、高密度水力など。
  3. 熱・化学として貯める(電気→熱・分子)
     蓄熱、産業用ヒートバッテリー、水素、合成燃料など。

英国が制度的に育てようとしているLDESの中心は、このうち2の領域である。
それは「電池の改良」ではなく、時間スケールを拡張するインフラ技術だからだ。


4. なぜ「電池一本足打法」が限界に来たのか

かつて「蓄電=電池」という理解が支配的だったのは、電池が非常に優れた特性を持つからである。
高効率で、反応が速く、設置も比較的容易だ。

しかし、電力システムが求める役割を「時間」で分解すると、事情が変わる。

・秒〜分:瞬時の周波数安定
・分〜数時間:需給調整、ピークカット
数時間〜数日:風が止まる、日照が続かないときの補完
・週〜季節:季節変動への対応

リチウムイオン電池が最も得意なのは「短時間〜数時間」だ。
一方で、「数時間〜数日」の領域では、電池を無理に大型化するより、
地形や空間を使った物理的な貯蔵の方が合理的になる場合が増える。

英国が狙っているLDESは、まさにこのゾーンを埋めるための技術群である。


5. 勝つ技術を創るのではない発想

英国の周辺ニュースを並べると、共通する思想が浮かび上がる。

・揚水の地形制約を緩める高密度水力
・空気を使って数時間〜数十時間蓄える液体空気蓄電
・それらを単発で終わらせず、制度で束ねて評価する仕組み

これらはすべて、

系統安定化を「電池の延長」で解こうとするのではなく、
地形・地下空間・立地条件に合わせた“別解”を組み合わせる

という発想で説明できる。

ここで起きているのは、「どの技術が勝つか」という競争ではない。


「条件に応じて使い分ける設計」

に移行しているという構造変化である。


6. 主要技術の位置付け(全固体電池・リチウムイオン電池)

この議論で混同されやすいのが、EV用電池との関係である。

EV用のリチウムイオン電池や全固体電池が解こうとしている問いは、

移動体(クルマ)に、軽く、安全に、高密度でエネルギーを積むにはどうするか

である。

これは「貯める技術」の分類で言えば、1:電気として貯める領域の話だ。
全固体電池は、その中で安全性やエネルギー密度を高める進化である。

一方、英国のLDESが向き合っている問いは、

国全体の電力を、再エネ変動を前提に、数時間〜数日スケールで安定化するにはどうするか

である。

問いが違う以上、両者は競合しない。
構図は次のようになる。

・EV(モビリティ):電池が主役
・系統(インフラ):長時間側は物理・地形を使う方式が主役
・両者は「蓄える」という言葉を共有しているだけで、最適化対象が異なる


7. まとめ「蓄電の再定義」

高密度水力の稼働は、単なる技術トピックではない。
Ofgemの制度に多数の案件が集まっている事実と合わせると、次の流れが読み取れる。

  1. 再エネ比率が上がるほど、「貯める」要求は短時間だけでは足りなくなる
  2. 長時間側は、電池の延長よりも物理・地形を使う方が合理的な場面が増える
  3. 英国はそれを制度として束ね、市場として導入し始めた
  4. その結果、「蓄電=電池」ではなく、条件適合の束としての蓄電が現実に混ざり始めた
  5. EV電池の進化は別軸で進み、モビリティ側の最適解を磨き続ける

言い換えれば、英国で起きているのは、

蓄電がデバイス選びから電力システム設計への思考の変化

である。

これはもちろん、英国一国の政策の話にとどまらない。
再エネが主役になる時代のエネルギーシステムが

「単一技術」だけでなく「組み合わせの設計」という方向もある

という気づきを与えてくれている象徴的な出来事と言えるだろう。


情報ソース(一次情報)


このまま
・note用タイトル案
・導入3行のキャッチ
・図解(貯める技術マップ1枚)用の説明文
も作れますが、次はどこを仕上げますか?

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