Pepperくん、ギネス認定、Pepper+発売も、世界は沈黙

2026年2月2日、ソフトバンクロボティクスが「Pepper+」の提供開始とギネス世界記録認定を発表した。しかし、かつて世界中で話題となったこのロボットに、今回、海外の主要メディアはほぼ反応しなかった。何が起きているのか──
※表紙写真はPR TIMESより


発表内容:AI搭載の新モデル登場

ソフトバンクロボティクスの公式発表

ソフトバンクロボティクスは2月2日、Pepperが「世界初の量産型ヒューマノイド」としてギネス世界記録に正式認定されたことと、AIエージェントを実装した新モデル「Pepper+」の提供開始を発表した。

Pepper+の主な新機能:

  • 最新AIを駆使し、プロの実演販売師のコミュニケーション術をAIで再現する「AI接客エージェント」を搭載
  • 販促支援会社KODEKAと連携し、来店客の属性や表情をカメラで認識し、顧客属性に応じた商品・サービスを提案
  • 顔認証とスマートキーを組み合わせた入退室管理機能
  • 即興カメラマン、ミュージカル機能、ゲームセンター機能

価格設定: 利用料金は初期費用のほか月額7万9800円から、従来モデルより1万円高い設定となっている。

ギネス認定の内容: 2014年6月5日の誕生から11年間進化を続けた量産型ヒューマノイドとして、「世界初」の記録が正式に認められた。


世界メディアの反応:異様な静けさ

報道したのはごく一部のメディアのみ

スペイン語圏メディア(Infobae、ABC Color、Diario Libre)がラテンアメリカで報道し、EFE通信が2月2日に基本情報を配信。ウクライナのMezha、ロシアのPravda Japanなど東欧メディアが簡潔に報道した程度だ。日本では日経新聞が詳しく報じている。

主要国際メディアは完全スルー

報道しなかったメディア:

  • BBC、Reuters、Bloomberg、CNN、AP通信
  • The Guardian、New York Times、Washington Post
  • 米国主要メディア全般
  • 欧州主要メディア全般

2014年のPepper発表時には世界中のメディアが取り上げた。今回の沈黙は対照的だ。


報じられなかった事実:Pepperの「失われた5年間」

2020年:生産停止

華々しいデビューから6年後、Pepperに転機が訪れる。

Pepperの生産は2020年6月に停止され、需要の弱さが理由だった。2020年に製造が完全停止し、約27,000台が生産されたのみという結果に終わった。

2021年:市場からの撤退

ソフトバンクは2021年に後継機を発表せずに生産を停止し、プロジェクトへの信頼を失った。

つまり、今回の「Pepper+」は、5年間の空白を経た事実上の復活なのだ。しかし公式発表では、この空白期間についてほとんど言及されていない。


現場での失敗:ロボットが解雇された理由

相次いだトラブル事例

国際メディアが過去に報じた実際の失敗例は深刻だった。

日本の葬儀場では経文の読み上げ中に停止を繰り返し、スコットランドの食品店では顧客の質問に関わらず「酒類コーナーを見て」と答え続け、介護施設では予定外の休憩を取りすぎて解雇された。

学術研究が示した限界

研究者たちの評価も厳しかった。

Pepperは(1)コンパニオンとして、(2)感情の認識、(3)信頼できる会話、(4)初回の娯楽以外のサービス提供、のすべてにおいて失敗したと結論づけられた。

信頼性の問題: 13台のロボットを分析した研究で、平均故障間隔(MTBF)がわずか8時間という高い故障率が判明。業務用機器としては致命的な数字だ。

技術的な課題:

  • SLAMナビゲーションは信頼性に欠け、目的地への正確な到達が困難。物体検出と顔認識の結果は一貫性がない
  • 参加者は「ロボットを中断できない」「ロボットが話しすぎる」「会話を誘導しようとしても反応しない」と批判

ユーザー体験の問題: 介護施設での研究では、Pepperの音声が「人工的すぎる」「機械的」「不快」と批判され、認知障害のない人でさえ聞き取りにくく理解しづらいとの評価を受けた。

多様性への対応不足: 多様な背景を持つ参加者、特にスペイン語話者やオーストラリア先住民コミュニティのメンバーは、Pepperが正しく理解しないか、文化的ニュアンスを認識しない一般的なフレーズで応答すると報告している。


競合との比較:変わったロボット市場

価格競争の激化

Pepper+の価格:

  • 月額7万9800円(年間約96万円)のレンタルモデル

新興競合の価格: 中国のUnitreeが2025年7月に5,900ドル(約88万円)のR1ヒューマノイドを発表し、業界に衝撃を与えた。

つまり、Pepper+を1年間レンタルする費用で、競合製品を買い切りで入手できる計算になる。

生産規模の差

競合の生産計画: TeslaがOptimus 5,000台(2025年)、10万台(2026年)を目標。中国BYDは2025年に1,500台、2026年に2万台を計画している。

Agility Roboticsは年間1万台のDigitロボット生産可能な専用工場を建設済みだ。

Pepperの実績: 約27,000台が生産されたのみで、生産は2020年に停止している。

市場規模の予測

世界のヒューマノイドロボット市場は2024年に15.5億ドルと推定され、2025年から2030年にかけて年平均成長率17.5%で2030年までに40.4億ドルに達すると予測されている。

ただし、2024年の9.843億ドルから2033年までに354.1億ドルへと年平均成長率48.9%で成長との予測もあり、市場はまだ発展途上で不確実性が高い。

ヒューマノイドロボットは2025年の88億ドルのロボット市場のわずか0.2%を占めるに過ぎず、2026年には0.8%に急増すると予測されている。

技術開発の現状

産業用ロボット大手がヒューマノイド開発を加速する中、進歩は「遅く、慎重で、ロボティクス、AI、マシンビジョン全体の成功に依存」している状況だ。


知られざる裏側

ヨーロッパ部門の破綻

Pepperを開発したヨーロッパ部門に深刻な事態が起きていた。

Aldebaran(旧SoftBank Robotics Europe)は2024年に約2900万ドルの営業損失を記録し、過去3年間で1億1900万ドル以上の損失を計上した。

2025年6月の最終局面: フランスの裁判所がAldebaranを管財人管理下に置き、継続的な財務損失と買い手を見つけられなかったことを理由に、106人の従業員を解雇している。

ビジネスモデルの崩壊

ロボットは約2万ドルの原価で販売され、継続的なソフトウェアとクラウドサブスクリプションから利益を生み出す計画だったが、経常収益がなかったため財務モデル全体が崩壊した。

つまり、技術的な問題だけでなく、ビジネスとして成立しなかったのが実態だ。


Pepperの11年間

出来事状況
2014年発表・販売開始世界的な注目を集める
2016-2020年現場での運用相次ぐトラブルと失敗事例
2020年6月生産停止需要の弱さが理由
2021年販売終了後継機の発表なし
2021-2025年空白期間市場から姿を消す
2024年欧州部門の赤字2900万ドルの営業損失
2025年6月欧州部門破綻従業員106名解雇
2026年2月Pepper+発表ギネス認定も国際メディアは無視

なぜ世界が反応しなかったのか?

今回の調査で浮かび上がった、国際メディアがPepper+を無視した背景としては、市場環境の変化が大きい。

Tesla、Boston Dynamics、中国メーカーなど、より先進的な競合が多数登場。価格面でも技術面でも、Pepperの優位性が見えにくい。

その結果、日本国内では一定の注目を集めたが、グローバル市場での競争力に疑問符がつく状況。

「世界初の量産型ヒューマノイド」という記録は歴史的事実。けれども、2020年に製造停止したロボットの認定は、現在の市場における成功というよりも、過去の功績への表彰という側面が強いしインパクトは薄い。


まとめ

2014年、Pepperは確かに時代を先取りしていた。「世界初の量産型ヒューマノイド」というギネス認定は、その功績を正当に評価したものだ。

しかし、2026年現在の状況は大きく異なる。生産停止、財政破綻、競合の台頭──Pepper+の発表は、かつての栄光を取り戻す試みというよりも、変化した市場での生き残りをかけた挑戦と見るべきだろう。

世界の主要メディアが完全に無視したという事実が、現在のPepperの国際的な位置付けを物語っている。それは、グローバルなロボティクス産業において、もはや注目に値する技術革新とは見なされていないことを示唆している。

日本国内での報道と国際的な沈黙──この温度差こそが、Pepperが直面する現実なのではないか?

ソフトバンクはAI領域に本気で取り組んでいる。これがゴールでないことは明らかで、単なる小さな通過点にすぎないはずである。今後の世界のメディアを驚かせるワクワクを期待したい。


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参照情報


② 日本語メディア報道


③ 海外メディア報道(英語・スペイン語・アジア)

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