データで見るAIがSaaS企業を駆逐している現実

はじめに
生成AI時代に起きているSaaS企業の変調をデータで確かめてみた
バイブコーディングやノーコード、ローコード、さらには生成AIを使えば、
これまで専門のエンジニアや企業でなければ作れなかったアプリや業務ソフトが、
個人や小規模チームでも簡単に作れるようになりつつある。
そうした環境変化を見て、ふと素朴な疑問が浮かぶ。
このままいくと、SaaS企業は価値がなくなるのではないか。
実際、米国のSaaS企業の株価は軒並み下落している。
それは単なる市況の悪化なのか、それとも構造的な変化なのか。
この疑問を確かめるため、SaaS純度が高い主要企業の株価と業績を整理し、
何が起きているのかをデータで確認してみた。
調査対象
SaaS純度が高い10社
今回は、基幹系ソフトやハードを含む企業は除き、
クラウド上でソフトウェアを提供するSaaS色の強い企業に絞った。
対象は以下の10社である。
- Salesforce
- ServiceNow
- Workday
- HubSpot
- Snowflake
- Datadog
- MongoDB
- Okta
- Zscaler
- Atlassian
いずれも、SaaS市場を代表する企業群である。
まず株価はどうなっているのか
| Ticker | 会社 | YTD | 1年 | 3年 |
|---|---|---|---|---|
| CRM | Salesforce | -27.77% | -41.78% | +14.57% (Yahoo!ファイナンス) |
| NOW | ServiceNow | -34.24% | -50.78% | 約+9.7%(※注) (ファイナンスチャート) |
| WDAY | Workday | -24.15% | -41.36% | -11.33% (Yahoo!ファイナンス) |
| HUBS | HubSpot | -42.04% | -70.11% | -35.38% (Yahoo!ファイナンス) |
| SNOW | Snowflake | -23.22% | -14.32% | -46.20% (Yahoo!ファイナンス) |
| DDOG | Datadog | -17.87% | -22.89% | -45.02% (Yahoo!ファイナンス) |
| MDB | MongoDB | -17.95% | +23.82% | +9.82% (Yahoo!ファイナンス) |
| OKTA | Okta | +0.31% | -11.01% | -22.57% (Yahoo!ファイナンス) |
| ZS | Zscaler | -25.60% | -18.07% | +25.48% (Yahoo!ファイナンス) |
| TEAM | Atlassian | -41.58% | -70.31% | -45.05% (Yahoo!ファイナンス) |
結論から言うと、短期的にはかなり厳しい。
YTD(年初来)および直近1年の株価推移を見ると、
多くの企業が大幅なマイナスとなっている。
特に
ServiceNow、Salesforce、Workday、HubSpot、Atlassian
といった企業は、1年で40〜70%近い下落を記録している。
一方で、3年スパンで見ると話は少し変わる。
MongoDBやZscalerのように、3年ではプラスを維持している企業も存在する。
つまり、
SaaS企業は短期的には強く売られているが、
長期的にすべてが崩壊しているわけではない。
この時点で、
株価下落 = 即、事業崩壊
と短絡的に結論づけるのは正しくなさそうだ。
業績は本当に悪いのか
次に、決算資料から業績を見てみる。
<以下はchatGPTによる業績分析>
(1)業績は悪いと言い切りにくい企業群
- Salesforce(CRM):Q3 FY26 売上 $10.3B(+9%)、サブスク&サポート $9.7B(+10%)、cRPO $29.4B(+11%)/ RPO $59.5B(+12%)。
→ 受注残(RPO)も伸びているので、実需の崩れというより 評価(バリュエーション)側の圧が出やすい形。 - ServiceNow(NOW):Q4 2025 サブスク売上 $3,466M(+21%)、cRPO $12.85B(+25%)。
→ 指標は強いが、株価は大幅下落(上の表)=良くても上振れしない市場心理が疑われる。 - Workday(WDAY):Q3 FY26 売上 $2.432B(+12.6%)、サブスク売上 $2.244B(+14.6%)。通期見通しとして FY26 サブスク売上 $8.828B(+14%)を示す。
→ 成長は継続。ただし市場は「鈍化/先行き」の織り込みが強い(後述の“解釈ギャップ”が起きやすい)。 - Okta(OKTA):Q3 FY26 売上 +12%、サブスク +11%、RPO +17%、cRPO +13%。
→ 成長+キャッシュが見える会社で、10社の中では相対的に株価耐性が出やすい。
(2)数字は伸びてるが、期待値が高すぎる企業
- Snowflake(SNOW):Q3 FY26 プロダクト売上 $1.16B(+29%)。
一方で、ガイダンスの野心に届かないといった受け止めで株価が振れやすい(見出しベースでもそれが示唆)。
→ 消費型モデルは四半期の見え方が荒れ、株価のボラが出やすい。 - MongoDB(MDB):Q3 FY26 総売上 $628.3M(+19%)、Atlas売上 +30%(売上の75%)。
さらにガイダンス引き上げが伝えられており、業績側は必ずしも悪くない。
→ それでもYTDはマイナス=高バリュエーション成長株の“地合い”影響が残る。 - Zscaler(ZS):Q1 FY26で ARR成長が加速(+26%)やRPO成長加速が言及され、強い立ち上がり。
→ ただしこの10社の株価は全体として弱く、強くても売られる局面が起こり得る。
(3)将来価値への懸念が生じている企業
- Atlassian(TEAM):売上成長があっても、生成AIによる代替不安や製品の将来価値への疑念で株価が強く売られる文脈が報じられている。
→ これは業績悪化とは別軸(プロダクトの存在意義への評価)で起きる下落。 - HubSpot(HUBS):直近のガイダンスが示す成長率の見え方が株に影響しやすい(Q4 2025の売上見通しが示唆されている)。
<ここまでchatGPTによる分析>
これをみて驚くのは、
株価の下落とは裏腹に、業績指標そのものは崩れていない企業が多い点だ。
Salesforceは、売上だけでなくRPO(受注残)やcRPOも2桁成長を維持している。
ServiceNowも、サブスクリプション売上と受注残は高い成長率を示している。
Workday、Okta、Zscalerも同様で、
サブスク売上やARR、RPOは着実に伸びている。
つまり、多くのSaaS企業は
顧客を失っているわけでも
売上が急減しているわけでもない。
それでも株価は大きく下がっている。
ここに、今回のテーマの本質がある。
SaaS企業が売られている本当の理由
分析すると、下落理由は、いくつかに整理できる。
1. 成長率の鈍化とガイダンスの見え方
多くのSaaS企業は、
高成長が前提となった評価を受けてきた。
売上が伸びていても、
成長率が少し鈍る
ガイダンスが慎重になる
それだけで株価は大きく反応する。
これは業績悪化ではなく、
期待値の修正に近い。
SaaS企業は長年、
高PER・高PSを正当化できる成長物語を持っていた。
しかし現在は
金利環境
マクロ不透明感
AIによる事業モデル変化
が重なり、その評価が見直されている。
業績が良くても株価が下がる。
その典型的な局面に入っている。
2. 生成AIによる構造不安
ここが今回の最大のポイントだ。
生成AIの進化により、
アプリや業務ツールを
「買う」より
「作る」
という選択肢が現実味を帯びてきた。
特に
CRM
マーケティング
コラボレーション
といったアプリ層のSaaSでは、
その機能は
本当に専用SaaSである必要があるのか
という問いが投資家側で生じている。
AtlassianやHubSpotが強く売られた背景には、
この構造不安が色濃く表れている。
3. 消費型SaaSの不確実性
SnowflakeやDatadogのような消費型モデルは、
顧客の利用量次第で業績が変動する。
生成AI活用やコスト最適化が進むと、
利用量の先読みが難しくなる。
その不確実性自体が、
株価のボラティリティを高めている。
では、SaaSは本当に価値を失うのか
ここまでを見る限り、答えは単純ではない。
多くのSaaS企業は、
今も売上を伸ばし、顧客を抱え、
事業としては健全だ。
しかし同時に、
SaaSというレイヤーの「期待値」は確実に変わりつつある。
まとめ
SaaSの期待値は、どこへ移ったのか
今回の調査から見えてきたのは、
SaaS企業が一斉に価値を失ったという話ではない。
起きているのは、「成長の源泉」の移動。
アプリや業務ソフトそのものではなく、
それを生み出す上流、つまり生成AI基盤やモデル、AI提供企業側へと、期待値がシフトしていると言ってよいのではないか。
誰でもアプリを作れる時代において、
アプリそのものはコモディティ化しやすい。
一方で、それを可能にする生成AIの基盤や能力は、
依然として希少であり、価値の源泉であり続ける。
単なるアプリやソフトウェアでは生きていけない事は証明されつつある!
SaaS企業が、今後も価値を保てるかどうかは、
自らのポジションを、現在とは異なるレイヤーにもっていけるかどうかにかかっている。
従来からのSaaSは冬の時代に突入しつつある。
新たなSaaSの役割が再定義される局面に、私たちは立っているのだろう。
過去の記事:
参照情報一覧
セクター全体・構造変化(AI × ソフトウェア)
- Reuters
https://www.reuters.com/business/global-software-data-firms-slide-ai-disruption-fears-compound-jitters-over-600-2026-02-06/ - Reuters(Snowflake関連)
https://www.reuters.com/business/snowflake-posts-third-quarter-revenue-above-estimates-2025-12-03/ - MarketWatch(ソフトウェア株全体の下落とAI影響)
https://www.marketwatch.com/story/software-stocks-have-been-crushed-heres-how-to-play-the-sector-as-the-dust-settles-c0175f8a
株価データ(YTD・1年・3年)
- Yahoo Finance(各社共通)
https://finance.yahoo.com/ - FinanceCharts(Total Return確認)
https://www.financecharts.com/
企業別 IR・決算情報
Salesforce
ServiceNow
Workday
HubSpot
Snowflake
Datadog
- Q3 2025 決算
https://investors.datadoghq.com/news-releases/news-release-details/datadog-announces-third-quarter-2025-financial-results - 決算日アナウンス
https://investors.datadoghq.com/news-releases/news-release-details/datadog-announces-date-fourth-quarter-and-fiscal-year-2025

