「人を商品にする」犯罪、人身取引 ー 最新データが示す衝撃の現実

はじめに
人身取引(じんしんとりひき)という言葉を聞いたことがありますか。
ニュースや映画では「人身売買」や「現代の奴隷制」とも呼ばれます。しかしこれは、過去の話でも遠い国の出来事でもありません。
今この瞬間も、世界中で起きている深刻な犯罪です。そして、日本も例外ではありません。
ここでは、初めて知る人にも理解できるよう、定義・仕組み・実例・最新データまで、順を追って説明します。
1. 人身取引の正確な定義
国際的な定義は、2000年に採択された
人身取引議定書
(パレルモ議定書)に基づきます。
定義は3つの要素で構成されます。
① 行為(何をするか)
- 勧誘
- 移送
- 引き渡し
- 隠匿
- 受け取り
② 手段(どうやって)
- 暴力や脅迫
- 誘拐
- 詐欺やだまし
- 権力の乱用
- 弱い立場につけ込む
③ 目的(なぜ)
- 性的搾取
- 強制労働
- 臓器摘出
- 強制結婚
- 物乞い・犯罪への強要 など
この3要素が組み合わさると人身取引になります。
特に重要なのは、18歳未満の子どもについては「手段(暴力・脅し)」がなくても、搾取目的で移送・引き渡しがあれば犯罪になる点です。
子どもは「同意」が法的に無効とされるからです。
2. なぜ「現代の奴隷制」と呼ばれるのか
鎖でつながれる奴隷のイメージは過去のものです。
現代の人身取引は、もっと巧妙で見えにくい形をとります。
- パスポートや在留カードの没収
- 「渡航費」「紹介料」などの架空借金
- 家族への危害をほのめかす
- 不法滞在を理由に強制送還を示唆
- SNSや恋愛関係を利用した心理的支配
被害者は暴力だけでなく、心理的拘束と経済的依存によって逃げられなくなります。
そのため、国際機関はこれを「現代の奴隷制」と位置づけています。
3. 主なタイプと具体例
(1)性的搾取目的の人身取引
- 売春や風俗業への強制
- ポルノ出演の強要
- SNS経由での勧誘
例:
- 「高収入アルバイト」で来日した女性がパスポートを没収される
- 交際相手にだまされ、援助交際を強要される10代少女
国連薬物犯罪事務所の報告では、検知される被害者の多くが女性・少女です。
(2)強制労働目的の人身取引
- 建設・農業・漁業・工場での長時間労働
- 給与未払い
- 外出禁止・監視
例:
- 多額の手数料を払って来日した技能実習生が、低賃金で働かされる
- 「逃げたら家族に危害」と脅される外国人労働者
近年は男性被害者も増加しています。
(3)その他
- 臓器摘出
- 強制結婚
- 子どもを犯罪に利用
4. 世界の現状(最新データ)
■ ILO推計(2022年)
国際労働機関 と
Walk Free による推計:
- 約 5,000万人 が現代奴隷状態
- 2,800万人が強制労働
- 2,200万人が強制結婚
- 子どもは約 1,200万人
■ UNODC報告
国連薬物犯罪事務所 の
「Global Report on Trafficking in Persons」によると:
- 検知被害者の約25%が子ども
- 地域によっては児童割合がさらに高い
■ IOM最新発表(2026年2月12日)
国際移住機関 は、
- 公式に識別された被害者 12.5万人以上
- そのうち 約3万人が子ども
- 「検知された被害者の4人に1人が子ども」
と強調しました。
ただし重要なのは、これは
「検知・識別された被害者」だけの数字という点です。
IOMが連携する
Counter-Trafficking Data Collaborative のデータに基づく可能性が高く、
実際の被害規模はこれより大きいと考えられています。
5. なぜ子どもが多いのか
- 貧困
- 紛争・難民化
- 家庭内暴力
- 教育機会の欠如
- 単身移動
特に「移動する子ども(Children on the move)」は、保護制度の網から落ちやすいと国際機関は警告しています。
6. 日本との関係
日本も例外ではありません。
- 外国人技能実習制度の問題
- 風俗業関連の搾取
- ホストクラブ問題
- SNSを利用した未成年搾取
毎年、数百件規模の摘発がありますが、
被害は「見えない」部分の方が大きいと指摘されています。
7. 私たちにできること
✔ 怪しい求人に注意
- 「高収入」「簡単」「海外で楽に稼げる」
✔ 身近な異変に気づく
- パスポートがない
- 外出できない
- 給料を受け取っていない
✔ 通報・相談
- 110番
- 警察庁人身取引対策窓口
- 女性相談支援センター
- 出入国在留管理庁
- IOMやユニセフの情報
最後に
人身取引は、
「人を人間として扱わない」犯罪
です。
数字の裏には、一人ひとりの人生があります。
そしてこの問題は、遠い国の出来事ではありません。
知ること。気づくこと。疑問を持つこと。
それが、被害を減らす最初の一歩です。
過去の記事:
(主な出典:IOM公式ニュースリリース 2026年2月12日、IOM Counter-Trafficking Data Collaborative、関連会議公式サイト)


