EUがSHEINを正式調査へ

はじめに
2026年2月、欧州委員会はファストファッションの巨人SHEINに対し、EU版インターネット規制法「デジタルサービス法(DSA:Digital Services Act)」に基づく正式調査(formal proceedings)を開始したと発表した。
Reuters、AP、The Verge、Guardian、FTなど主要メディアが一斉に報じたこのニュースは、単なる企業スキャンダルではなく、EUのデジタル規制がEU外からのECサービスに踏み込んだ事例として捉えることができる。
DSAとは?
DSAは、EU域内で活動するオンラインプラットフォームに対し、違法コンテンツの対処・透明性確保・ユーザー保護などを義務付けるEUの法律だ。
特にユーザー数が多い「超大型オンラインプラットフォーム(VLOP:Very Large Online Platform)」には、より厳しいリスク評価・監査・透明性義務が課されている。
SHEINはすでにEUからVLOPに指定されている。EU域内の月間アクティブユーザー数が基準値を超えると認定されたためだ。VLOPに指定された以上、通常のプラットフォームより高い義務水準が適用され、それを満たしているかどうかを欧州委員会が監督・調査する権限を持つ。今回の正式調査は、その枠組みに基づいて動いている。
調査の焦点
欧州委員会が発表した調査の争点は、明確に3つに整理されている。
第一に、違法商品・違法コンテンツの流通防止の仕組みだ。
SHEINのようなマーケットプレイス型のプラットフォームでは、膨大な数のサードパーティ出品者が商品を販売する。問題は、その中に違法品が混入しても、プラットフォームが適切に検知・除去・再出品防止できているかどうかだ。今回の調査で具体的に例示されたのが「child-like sex dolls(子どもに見えるラブドール)」だ。ただし、これはあくまで例示のひとつであり、武器類など他の違法品カテゴリーも調査範囲に含まれる。
第二に、「中毒性デザイン(addictive design)」とそのリスク緩和策だ。
これが今回の調査で最も議論を呼んでいる論点のようだ。SHEINはアプリ内でポイントや報酬を付与するゲーミフィケーション設計を採用しており、ユーザーの継続利用や衝動的な購買行動を促す仕組みを持っている。欧州委員会はこれを「中毒性(addictive)」を生む設計として問題視し、リスク評価と緩和策の有無を調査している。
注意すべきは、中毒という言葉が医療的な診断を意味するわけではない点ではないだろうか。
規制の文脈では、「プラットフォームの設計がユーザーの意思決定を過度に誘導し、害を増幅しうるか」という問いとして扱われる。The VergeやBusiness Insiderはこの論点を重視し、「EUがゲーミフィケーション自体をリスクとして正面から取り締まり対象に置いた」という点に注目した報道を展開した。
これはEC市場に限った話でないのは明らかで、あらゆる業界への影響が懸念される。
第三に、レコメンドシステムの透明性だ。
DSA上、VLOPはユーザーへのレコメンド(商品推薦)において、どのような主要パラメータに基づいて表示順が決まるかを説明しなければならない。さらに、「プロファイリングに基づかない」選択肢を少なくとも1つ提供する義務がある。要するに、ユーザーデータで行動を分析・予測した結果だけを見せるのではなく、そうではない推薦モードも用意せよ、ということだ。一般メディアではやや地味に扱われがちな論点だが、欧州委員会の発表ではこの3点が対等に並んでいる。
制裁は、最大で世界売上の6%
DSAの執行枠組みでは、違反が最終的に確定した場合、企業に対して世界年間売上の最大6%に相当する制裁金を課すことができる。加えて、期限付きの是正命令や、場合によっては暫定措置も取り得る。SHEINの規模を考えれば、6%という数字は小さくない。欧州委員会がVLOPに対して持つ調査・制裁の権限は、DSAによって強力に設計されている。
「越境ECモデルへの締め付け」という大きな文脈
FTなどの経済紙は、今回のDSA調査を単独の企業問題として報じるのではなく、SHEINやTemuなど中国系越境ECに対するEUの包括的な圧力の一環として位置づけた。
そしてここに、もうひとつの重要な政策変化が重なる。EU理事会は2025年12月、150ユーロ未満の小口貨物に対し、2026年7月1日から定額3ユーロの関税を課すことで合意した。これは実質的に、SHEINやTemuのビジネスモデルを下支えしてきた「小口免税」の仕組みを崩す動きである。規制で締め、課税でも締める。DSAとこの関税変更が重なると、「安さの前提」がコスト構造レベルから揺らぎ始める可能性がある。
論点を整理すると
報道を横断して読むと、論点の構造が見えてくる。
「child-like sex dolls」は確かに衝撃的なキーワードであり、多くのメディアが見出しに使った。しかしこれは言わば目を引くための炎上ネタである。違法品流通への対応不備という問題は重要だが、制度的には技術的・運用的な改善で応答できる範囲の話でもある。
より本質的な論点は「中毒性デザイン」と「レコメンドの透明性」の方にある。
なぜなら、これらはSHEINのサービス設計そのもの、つまりビジネスモデルの中核に触れる問いだからだ。ゲーミフィケーションで購買衝動を高め、アルゴリズムで最適化されたレコメンドを打ち続ける。この設計を「リスクとしてどう評価し、どう緩和するか」を問われると、SHEINはアプリそのものの仕様を見直す必要が出てくる可能性がある。
そして、その背景には越境ECのコスト前提が変わるという産業構造上の変化があり、DSAの調査はその変化を加速させる触媒として機能しうる。
今後の見通し
調査の見通しは、概ね以下の通りだ。
欧州委員会はSHEINに対して追加の情報提供を求め、必要であれば暫定措置も取り得る。最終的に違反が認定されれば、是正命令と制裁金が課される。企業側は、違法品モデレーションの強化、報酬設計の見直し、レコメンドの透明化といった対応を迫られることになる。
SHEINは調査開始に際してコメントを出しているが、具体的な設計変更の方針については現時点で明らかにしていない。
まとめ
EUのDSAによるSHEIN調査は、「プラットフォームの設計がユーザーに害をもたらすか」という、より根本的な問いを突きつけている。違法品対応・中毒性デザイン・レコメンドの透明性という3つの争点はそれぞれ独立しているようで、実はすべてが「プラットフォームの構造的な責任」という一点に収束する。
そこに、小口関税という越境ECのコスト前提を揺るがす変化も重なっている。DSAの調査は、SHEINという一企業への個別規制であるだけではなく、EUが「越境EC」への再設計を迫る、より大きなプロセスの一部として読むべき出来事なのではないだろうか。
過去の記事:
参照情報
一次情報(公的機関)
- 欧州委員会|SHEINへの調査開始プレスリリース(DSA) https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/news/commission-launches-investigation-shein-under-digital-services-act
- 欧州委員会|DSA執行枠組み(罰金・是正命令等) https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/dsa-enforcement
- EU理事会|小口貨物への関税(€3)合意(2025年12月) https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2025/12/12/customs-council-agrees-to-levy-customs-duty-on-small-parcels-as-of-1-july-2026/
主要メディア報道
- Reuters|EU probes Shein over sale of illegal products, addictive design https://www.reuters.com/sustainability/eu-probes-shein-over-sale-illegal-products-addictive-design-2026-02-17/
- AP News|Shein faces EU investigation over illegal products and addictive design features https://apnews.com/article/9a358fb37af63c3fd124eefb3690cc55
- The Verge|Shein's 'addictive design' and illegal sex dolls under investigation https://www.theverge.com/policy/879964/shein-eu-dsa-investigation-illegal-products-addictive-design
- The Guardian|EU to investigate Shein over sale of childlike sex dolls and weapons https://www.theguardian.com/business/2026/feb/17/eu-investigate-shein-sale-of-sex-dolls-recommender
- Financial Times|Brussels investigates Shein for sale of childlike sex dolls https://www.ft.com/content/da923120-1684-407b-855c-7cb79ace090f
- Business Insider|European Commission investigating Shein's addictive gamified service https://www.businessinsider.com/european-commission-investigating-shein-addictive-gamified-service-2026-2

