「ジョブ・ハギング」—怖くて辞められない時代

総合点 89点
| 評価項目 | スコア | 満点 |
|---|---|---|
| 未注目度(日本語圏) | 13 | / 15 |
| インパクト(産業・社会) | 18 | / 20 |
| 実現性(2〜3年) | 10 | / 10 |
| 新規性(既存トレンドとの差分) | 18 | / 20 |
| 証拠の強さ(一次情報/データ) | 9 | / 10 |
| 衝撃度(ワクワク・ドキドキ) | 21 | / 25 |
はじめに
ここ数年、アメリカの労働市場を語るうえで欠かせないキーワードが毎年のように更新されてきた。
2021〜22年の「大退職時代(Great Resignation)」、
その後の「静かな退職(Quiet Quitting)」、
そして2026年の今、新たに台頭しているのが「ジョブ・ハギング(Job Hugging)」だ。
直訳すれば「仕事にしがみつくこと」。ただし、これは職場への愛着や満足感からくるものではない。恐怖から動けなくなった状態。
それがこの言葉の核心にある。
急速な変化。。。
2026年2月、キャリア支援サービスの ResumeBuilder.com がアメリカの就労者 2,188人を対象に調査を実施した。結果はかなり衝撃的なものだった。
回答者の 57% が自身を「ジョブ・ハガー」だと認識していたのだ。
同社が 2025年8月に実施した同様の調査では 45% だったから、わずか 5ヶ月で 12ポイントも増加したことになる。
なぜ動けないのか。ジョブ・ハガーのうち 70% が「今後6ヶ月以内にAIが自分の仕事に影響を与えることを懸念している」と答え、63% が「解雇されることへの不安がある」と回答している。また、80% 以上が「転職先で真っ先にリストラされるリスクを取りたくない」として、新たな職場への移動を躊躇していることも明らかになった。
この傾向はアンケートだけに留まらない。アメリカ労働統計局(BLS)の最新データ(2025年12月)によれば、自発的離職率は 2.0% で推移しており、コロナ禍後の高値から明確な低下傾向を示している。求人件数もピーク時から減少を続け、2025年12月時点で 650万件まで落ち込んでいる。表面的な数字だけ見れば「雇用が安定している」とも読めるが、その内実はかなり違う。
「大退職」時代からの大逆転
2021〜22年の大退職は、より良い待遇や働き方を求めて自ら動いた能動的な選択だった。一方、ジョブ・ハギングは「もっと良い場所があるかもしれないが、動くのが怖い」という受動的な停滞だ。主語が同じ「在職者」でも、そのメンタリティはまったく異なる。
しかも、ジョブ・ハガーたちは決して楽をしているわけではない。
ResumeBuilder の調査では、ジョブ・ハガーの 52% が「通常より長く働いている」と回答しており、45% が職務記述書の範囲を超えた業務を引き受けていると答えている。昇給を逃した人は 22%、昇進の機会を失った人は 20% に上る。「しがみつく」ために、むしろ負担・コストを払い続けているという逆説的な状況が生まれているのだ。
AI不安がドライバー
過去の雇用停滞と今回が異なる最大のポイントは、AI不安が恐怖の中心にいることだ。
不景気だから動けない、という従来型の萎縮ではなく、「自分のスキルが陳腐化するかもしれない」「AI導入で自分のポジションが消えるかもしれない」という技術的不確実性が行動を縛っている。
興味深いのは、この傾向がホワイトカラー層、とりわけテクノロジーや金融分野の従事者に集中して見られる点だ。
かつて最も積極的に転職していた層が、今では最も動けなくなっている。
また MetLife の「2026年従業員福利厚生トレンド調査」(HR担当者 2,480人、フルタイム従業員 2,541人を対象に 2025年10月実施)も、在籍理由として「不確実な雇用市場ではリスクが大きすぎる」と回答した割合が 31% に上ることを示している。さらに、必要に迫られて留まっている従業員の場合、積極的に関与している割合は 50% にとどまるという。エンゲージメントの低下が、静かな形で組織全体の生産性を蝕んでいる可能性がある。
日本との比較
日本には解雇規制があり、雇用の流動性もアメリカほど高くない。
そのため「しがみつき」は当たり前、常態化しており、ジョブ・ハギングという言葉を聞いてもピンとこない人も多いだろう。ただ、この現象の本質は「恐怖が転職意欲を上回っている」という点にあるのだろう。
日本でも、AIによる業務代替への不安は着実に高まっている。雇用流動性の低さにAI不安が重なれば、「動きたいが怖い」ではなく「動かなくてもいいが、内側では消耗している」という形の停滞が広がる可能性がある。見かけ上は安定した雇用統計の裏で、静かな疲弊が蓄積していくという構図に変化しているのである。
次に何が起きるか
ResumeBuilder の調査によれば、ジョブ・ハガーの 7割以上が「少なくとも今後6ヶ月はこの状態を続けるつもり」と答えており、44% は「安心して動けるようになるまでに1年以上かかる」と見ている。これは一時的な感情の揺らぎではなく、構造的な変化として定着しつつあることを示唆している。
専門家たちが指摘するのは「ペンデント・エクソダス(保留された大脱出)」というリスクだそうだ。
AIによる雇用代替が進んだとき、ジョブ・ハガーたちが「準備のないまま」市場へ放出されてしまうのである。
「怖くて辞められない」という感情は、労働者個人の問題ではなく、今の時代の空気そのものを映している。この新しい語彙が、次の数年でどこへ向かうのか。。。。
注目し続ける価値があるトレンドだと思う。
参照情報
ResumeBuilder.com 調査レポート(2026年2月): https://www.resumebuilder.com/6-in-10-workers-are-clinging-to-their-jobs-as-job-hugging-soars-in-2026/
PRNewswire プレスリリース: https://www.prnewswire.com/news-releases/resumebuildercom-survey-6-in-10-workers-are-clinging-to-their-jobs-as-job-hugging-soars-in-2026-302687794.html
QZ(Quartz)記事: https://qz.com/job-hugging-clinging-labor-market
IndexBox 解説: https://www.indexbox.io/blog/job-hugging-surges-57-of-us-workers-fear-changing-roles-in-2026/
米国労働統計局(BLS)JOLTS 2025年12月分: https://www.bls.gov/news.release/jolts.nr0.htm
MetLife 2026 Employee Benefit Trends Study(調査概要は各報道経由)


