EVの「不可逆的成長」神話が崩れた?—米国登録台数41%急落

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衝撃度
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証拠強度
9
実現性
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数字が語る「リセット」の現実

2026年1月、米国で新たに登録された電気自動車(EV)はわずか59,802台だった。前年同月比で41%の急落であり、S&P Global Mobilityのアナリスト、トム・リビー氏はこう述べた。「予想していた展開だ。これはリセットであり、今後の回復は非常にゆっくりとしたものになるだろう」 Carscoops

EVの市場シェアは8.3%から5.1%へと落ち込み、その分をガソリン車(76.6%、前年比+2.3ポイント)とハイブリッド車(14.7%、前年比+1ポイント)が取り戻した。 InsideEVsこれは単なる月次の揺らぎではない。構造的な転換の始まりだ。

引き金を引いた「一本の法律」

この急落の直接的な引き金は、連邦政府によるEVタックスクレジットの廃止だ。2025年7月4日、トランプ政権下でいわゆる「One Big Beautiful Bill Act」が署名・成立し、新車購入に対する7,500ドルのクレジットと中古車向け4,000ドルのクレジットが、2025年9月30日をもって消滅した。 CBT News

EVの登録台数は、タックスクレジットが失効した9月30日以降、前年比でマイナスが続いている。 Autoblog補助金という「底板」が抜けた瞬間、市場がどれほどその上に乗っかっていたかが浮き彫りになった格好だ。

ちなみにテスラは依然として米国EV市場の53.7%を占め、1月だけで32,123台を登録している。ただしテスラ自身も前年比26%のマイナスと無傷ではない。補助金なき世界では、すべてのプレイヤーが等しく逆風にさらされている。

720億ドルの「EV敗走」

登録台数の急落は、すでに業界の財務を直撃している。GM、Ford、Stellantis、そしてホンダという主要4社が合計で約720億ドルを超える損失・減損を計上した。ホンダだけで157億ドル(約2.5兆円)に達し、これはウガンダのGDPに匹敵する規模だという。 Jalopnik

ホンダの動向は特に象徴的だ。ホンダは2026年3月、米国向けに計画していた「Honda 0 SUV」「Honda 0 Saloon」「Acura RSX」の3モデルをキャンセルすることを発表した。需要の急速な縮小を前に、これらのモデルを今から市場投入することは、長期的にさらなる損失を招くと判断したという。 The Truth About Carsさらに現行のHonda Prologueも2026年12月に生産を終了する見通しであり、そうなれば2027年以降、ホンダは米国市場でEVをまったく持たないことになる。 Drive Tesla

ホンダは今後、EV投資を縮小しハイブリッド車の開発に軸足を移す方針だ。EVに集中投資した結果として今後さらなる損失が見込まれていたことが、この判断の背景にある。 Autoblog

欧州は「逆」に動いている

同じ時期に欧州で何が起きているかを見ると、対比は鮮烈だ。2026年1月、EU市場ではBEVの市場シェアが19.3%に達し、前年同月の15%から大幅に上昇した。ハイブリッド車は38.6%とさらに高いシェアを誇り、プラグインハイブリッド(PHEV)も9.8%へと拡大している。 acea

米国と欧州で真逆の動きが起きているこの現象を、「トリプルスピード問題」と呼ぶ向きもある。米国では補助金剥奪によって市場が収縮し、欧州では規制と補助金を背景に拡大が続き、そして日本・中国ではまた別の力学が働いている。自動車メーカーが1つのグローバル戦略で世界を渡り歩くことは、もはや不可能になりつつある。

「政策依存型市場」という脆弱性

この騒動が明らかにしたのは、EVの普及が「技術の成熟」ではなく「政策のお膳立て」によって支えられていた側面が大きかった、という事実だ。補助金という人工的な需要の底が取り除かれた途端に、市場は5%台にまで縮小した。

一方で、米国市場で「EV = 不可逆的な未来」という前提を信じて積み上げた投資の代償が、今まさに決算書に刻まれている。GM・Ford・Stellantis・ホンダの4社だけで720億ドル超。この数字は、グローバルな産業トレンドが政策リスクから切り離せないことを改めて示している。

トヨタが長らく「全方位戦略」として批判されてきたハイブリッド路線を維持してきた点は、結果的に追い風となっている。市場の揺り戻しによってハイブリッド需要が米国で回復しつつある今、ハイブリッドを軸に据えてきたメーカーは相対的に有利な立場に立っている。

2026年以降のシナリオ

今後2〜3年で米国市場がどう落ち着くかについては、専門家の見方はおおむね一致している。EVは「消えない」が、「主流」にはならないまま、高価格帯の選択肢として一定の市場に定着するというシナリオだ。チャージングインフラの整備、航続距離の改善、そして価格競争力の回復がなければ、この構造は変わらない。

EV専業スタートアップにとっては厳しい資金環境が続くことが予想される一方、ハイブリッドや電動化技術を幅広く持つメーカーには追い風が吹く。そして欧州と米国のEV普及速度の乖離は、グローバルサプライチェーンと製品ラインナップの再構築を迫る、静かだが大きな圧力となっていくだろう。

参照情報

https://www.autonews.com/ev/an-ev-registrations-crash-in-january-amid-market-shakeout-0313

https://www.acea.auto/pc-registrations/new-car-registrations-3-9-in-january-2026-battery-electric-19-3-market-share

EV Sales Plunge 41% In The US As Post-Incentive Reset Takes Hold | Carscoops

Tesla still dominates US EV registrations, but new data shows the segment shrinking after the federal tax credit disappeared last fall

https://insideevs.com/news/790092/ev-sales-us-january-2025

https://www.jalopnik.com/2122668/ev-restructuring-cost-automakers-70-billion

https://www.autoblog.com/news/honda-prologue-may-be-next-as-honda-cancels-three-evs

Honda canceling Prologue EV after sales collapse in the U.S.: Report - Drive Tesla

Honda’s short-lived push into the U.S. electric vehicle (EV) market appears to be winding down much faster than expected. The automaker is reportedly preparing…

https://www.kiplinger.com/taxes/whats-happening-with-the-ev-tax-credit

https://www.cbtnews.com/its-over-trumps-big-beautiful-bill-ends-ev-tax-credit-september-30

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