中国Aridgeが「世界初の飛行車工場」を稼働 ー量産フェーズに入った空飛ぶクルマと低空経済の行方

XPeng AeroHT(現Aridge)飛行車工場稼働の一次情報と世界の報道整理
写真は出典:Aridge(旧 XPeng AeroHT)公式サイトより(https://intl.aridge.com/news?id=239&utm_source=chatgpt.com)
はじめに
中国のEVメーカーXPengの飛行車部門だったXPeng AeroHTは、2025年10月に「Aridge(アリッジ)」へブランド変更し、その後まもなく広東省広州市の新工場でモジュール式飛行車「陸地空母(Land Aircraft Carrier)」の試験生産を開始しました。(intl.aridge.com)
この出来事は「世界初の飛行車量産工場の稼働」として報じられ、中国がアーバン・エア・モビリティ(UAM)や「低空経済」で主導権を取りにいく象徴的な動きとして、世界各地のメディアに取り上げられています。(China Daily)
まず一次情報として事実関係を整理し、そのうえで各地域の報道内容と論調をまとめます。
1. 一次情報で確認できる事実
1-1 企業とブランド変更
・XPengの飛行車子会社XPeng AeroHTは、2025年10月にブランド名を「Aridge」に変更しました。
・AridgeはXPeng傘下のまま、飛行車と低空モビリティに特化した子会社として位置づけられています。(intl.aridge.com)
各国メディアは「Aridge(旧XPeng AeroHT)」という表現で紹介しており、ブランド変更後もしばらく旧名称とセットで報じられています。(ガルフニュース)
1-2 製品概要:陸地空母(Land Aircraft Carrier)
・陸地空母は「モジュール式飛行車」で、六輪三軸の電動地上車両(マザーシップ)と、着脱式の二人乗りeVTOL(電動垂直離着陸機)モジュールで構成されます。(CGTNニュース)
・地上モジュールは、飛行モジュールの格納・充電・搬送を担い、簡単な操作で離脱・接続が可能とされています。
・飛行モジュールは垂直離着陸が可能で、自動飛行モードと手動操作モードの両方を備えたマルチローター型eVTOLとして紹介されています。(AGN)
ユーザー案にある「六輪の地上車両と着脱式eVTOLで構成されるモジュール式飛行車」という理解は、一次情報と整合しています。
1-3 工場の場所・性格・生産能力
・所在地は広東省広州市黄埔区で、敷地面積は約12万平方メートルと報じられています。(China Daily)
・「世界初の飛行車量産工場」「飛行車専用のインテリジェント工場」と位置づけられ、陸地空母の飛行モジュール量産に特化した設備とされています。(China Daily)
・生産能力
・設計上の年間生産能力は着脱式航空モジュール1万機
・初期稼働フェーズでは年間5千機を想定
・フル稼働時には約30分に1機組み立て可能と説明されています。(China Daily)
これらの数字は、中国系メディアと業界メディアでほぼ共通しており、ユーザー案の内容と一致します。
1-4 試験生産の開始時期と現状
・2025年11月初旬、工場のラインで陸地空母の飛行モジュール第1号機が完成し、「試験生産開始」として発表されました。(CnEVPost)
・中国の国営系メディアや地元開発区の広報は、この時点で「世界初の飛行車量産ラインが本格稼働に向けて動き出した」と強調しています。(China Daily)
したがって、「11月3〜4日ごろに試験生産開始」「最初の着脱式モジュールがラインオフ」という記述は事実と見なせます。
1-5 価格・量産開始時期・納入スケジュール
・価格について、AridgeおよびXPeng側は「最終価格は未定だが、200万元(約28万ドル)未満を目標とする」と複数回コメントしています。(ウィキペディア)
・量産と納入開始時期については、
・中国やアジア向けを中心に「2026年から量産と顧客への納入を開始する」と説明されています。(China Daily)
・一方、中東市場については「2027年から販売開始」という報道もあり、地域によってタイミングに差が出る見込みです。(AGN)
したがって、「量産と納入開始は2026年予定」という記述は全体計画としては妥当ですが、地域によっては1年前後のずれが出る可能性がある点を補足する必要があります。
1-6 プレオーダー数と中東600機契約
・プレオーダー数
・中国系メディアは「製品発表以来、累計約5千台の予約を獲得」と報じています。(China Daily)
・その後、ドバイでの有人デモ飛行とGCC契約が発表された段階では、「世界全体の予約台数は7千台超」という数字が示されています。(AGN)
・したがって「約5千件の先行注文」という表現は、やや古い報道に基づくもので、直近では「7千件超」がより正確な数字といえます。
・中東600機契約
・2025年10月、ドバイでの有人デモフライトと同時に、UAEのAli & Sons Group、カタールのAlmana Group、クウェートのAlSayer GroupなどGCC企業を含むコンソーシアムと、合計600機の陸地空母に関する受注契約を締結したと発表されています。(AGN)
・各メディアはこれを「飛行車分野で最大級の海外一括受注」と紹介しています。
ユーザー案にある「中東企業グループとの600機契約」「海外での最大級の受注」という記述は、一次情報と整合しています。
2. 世界の報道内容と論調の整理
次に、各地域・媒体の報道を整理します。
2-1 中国メディア:低空経済と産業戦略の象徴
中国の国営系メディアや地方政府の公式サイトは、次の点を強調しています。(China Daily)
・「世界初の飛行車量産工場が試験生産を開始した」という快挙
・年間1万機という大規模な生産能力と、30分に1機というタクトタイム
・EV、スマートカー、UAM、低空経済をつなげる「新たな成長エンジン」としての期待
また、「低空経済」を国家レベルの重点分野として位置づけ、その代表事例のひとつとして陸地空母を紹介し、中国が次世代モビリティで主導権を握るというストーリーを描いています。(China Daily)
2-2 アジア一般紙・インドメディア:テスラとの比較と「先行感」
インドなどの一般紙・オンラインメディアは、「テスラより先に飛行車の試験生産に入った中国EVメーカー」という対比を前面に出しています。(The New Indian Express)
論調のポイントは次の通りです。
・試作・構想段階にとどまる他社に対し、Aridgeが工場と試験生産という「実行フェーズ」に入ったこと
・先行予約数や生産能力などの数字を挙げ、「中国企業のスピード感」を象徴する事例として紹介
・一方で、安全規制やインフラ整備、大衆向け価格にはまだ大きなハードルが残るとし、「飛行車が一気に普及するわけではない」という冷静な見方
このように、「先行しているが課題は多い」というバランスの取れたトーンが中心です。
2-3 中東メディア:実需・観光・富裕層市場への期待
ドバイでの有人デモ飛行と600機契約を取材した中東メディアは、次の点を強調しています。(ガルフニュース)
・ドバイでの有人飛行は「中東初の本格的な飛行車デモ」であり、観客や要人の前で成功したこと
・600機契約により、GCC市場が低空モビリティの有力な実証フィールドになる可能性
・価格帯や用途から、当面は観光・エンターテインメント、富裕層向け移動、特定用途に限られるという見通し
・将来的には、中東がAridgeの海外生産拠点候補になり得るという発言も報じられており、現地での産業誘致の文脈でも注目されています。(Khaleej Times)
2-4 欧米・テック系メディア:モジュール設計とディスラプションの可能性
欧米のテック系メディアや航空・自動車専門メディアは、陸地空母の「モジュール設計」と「量産工場」の組合せを次のように評価しています。(CnEVPost)
・六輪のマザーシップと着脱式eVTOLを組み合わせる「自動車的アプローチ」が特徴的であること
・マザーシップが「移動式ハンガー兼充電ステーション」として機能することで、専用ヘリポートへの依存を一部軽減できる可能性
・量産工場の稼働により、従来のeVTOLスタートアップとは異なる「量と価格」を前提にしたビジネスモデルに踏み出した点
一方で、懸念・課題として次の論点が繰り返し指摘されています。(The New Indian Express)
・航空機と自動車の双方の認証をどのように取得・維持するか
・都市上空の空域管理、騒音、プライバシーなど、社会受容性に関わる問題
・飛行車専用の離着陸場や、充電・保守インフラの整備負担
・事故発生時の責任区分や保険制度など、制度設計の難しさ
総じて、「技術的には野心的で画期的だが、日常的な交通手段になるまでは長い道のりがある」というスタンスが主流です。
3. 構造的な意味合いと今後の見通し
一次情報と各地の報道を総合すると、今回の工場稼働には次のような構造的意味があります。
1つ目は、「飛行車を本当に量産する前提に立った初めての工場」であることです。
多くの企業がコンセプト機や少量生産を前提にしている中で、Aridgeは初期5千機、将来1万機という数値を掲げて工場を設計しており、コストカーブを下げることで市場を広げる戦略を明確にしています。(China Daily)
2つ目は、中国の産業戦略との一体性です。
EVや再生可能エネルギーで培ったサプライチェーンと製造能力を、低空経済やUAMにも拡張しようとしている点が、中国メディアの報道からも読み取れます。国内だけでなく、中東をはじめとする海外市場への同時展開を前提としていることも特徴です。(China Daily)
3つ目は、規制・安全・インフラの三つ巴の課題が、今後の普及スピードを大きく左右するという点です。
現時点では、観光・富裕層向け・特定用途を中心としたニッチ市場から立ち上がると見られており、都市交通全体を「崩壊させる」ようなディスラプションがすぐに起こると考える報道は多くありません。ただし、中国や中東のように制度設計が早く進む地域で実証が積み上がれば、他地域の規制議論や産業政策にも影響を与える可能性は高いといえます。(Khaleej Times)
総じて、XPeng AeroHT(Aridge)の工場稼働は、「空飛ぶ車が本当に量産フェーズに入り始めた最初の具体的な事例」として、世界の報道機関に慎重かつ注目度の高いトピックとして扱われています。
参考情報・参照元(一次情報・主要報道)
・China Daily: World’s first flying car factory begins trial production in south China
https://www.chinadaily.com.cn/a/202511/04/WS69095e99a310f215074b8d58.html
・NewsGD: World’s first flying car factory begins trial production in Guangzhou
https://www.newsgd.com/node_5c070fdd03/cfe31c127c.shtml
・CGTN: World’s first flying car factory begins trial production in China
https://news.cgtn.com/news/2025-11-12/World-s-first-flying-car-factory-begins-trial-production-in-China-1If710oiJYk/p.html
・CNEV Post: Xpeng’s Aridge produces its 1st flying car at its mass production facility
https://cnevpost.com/2025/11/03/xpeng-aridge-produces-1st-flying-car-mass-production-facility/
・Guangzhou Development District(公式Facebook)
https://www.facebook.com/guangzhouinchina/posts/global-first-and-its-in-guangzhouthe-worlds-first-ever-mass-production-line-for-/1261151716058238/
・New Indian Express: China’s Xpeng begins trial production of flying cars, ahead of Tesla
https://www.newindianexpress.com/business/2025/Nov/04/chinas-xpeng-begins-trial-production-of-flying-cars-ahead-of-tesla
・The News International: China begins production at world’s first flying car factory
https://www.thenews.com.pk/latest/1357652-china-begins-production-at-worlds-first-flying-car-factory
・Yahoo News: World’s first flying car factory begins trial production in China
https://sg.news.yahoo.com/world-first-flying-car-factory-085148890.html
・Aridge 公式リリース(ブランド変更・製品紹介)
https://intl.aridge.com/news?id=239
・Aerospace Global News: XPENG wins 600 GCC orders for ARIDGE flying car
https://aerospaceglobalnews.com/news/xpeng-aridge-land-aircraft-carrier-flying-car-orders-gcc/
・Gulf News: Chinese flying car maker Aridge completes first manned test in Dubai, secures 600 orders
https://gulfnews.com/business/aviation/chinese-flying-car-maker-aridge-completes-first-manned-test-in-dubai-secures-600-orders-1.500304348
・Times of India: Dubai – Flying cars are here! Chinese car maker Aridge conducts first manned flight, secures 600 orders
https://timesofindia.indiatimes.com/world/middle-east/dubai-flying-cars-are-here-chinese-car-maker-aridge-conducts-first-manned-flight-secures600orders/articleshow/124519066.cms
・AIN Online: Middle East Buyers Sign for 600 Xpeng Land Aircraft Carriers
https://www.ainonline.com/aviation-news/futureflight/2025-10-23/middle-east-buyers-sign-600-xpeng-land-aircraft-carriers
・Khaleej Times: UAE could become home to modular flying car factory, says Aridge CFO
https://www.khaleejtimes.com/uae/uae-modular-flying-car-factory-aridge-cfo
・XPeng / XPeng AeroHT 概要(Wikipedia)
https://en.wikipedia.org/wiki/XPeng


