1000人超のアマゾン従業員が鳴らした「AI暴走」アラート

気候、雇用、民主主義をめぐる3つの警告
はじめに
「このままのスピードでAIを突っ走れば、民主主義と仕事と地球に甚大な損害が出る」
こう書き出される公開書簡に、アマゾンの従業員が1000人以上署名しました。
連帯署名に加わった他社のテックワーカーは2400人超。
対象は、自社の経営トップです。
彼らが問題視しているのは、アマゾンの「ワープスピード」なAI投資と、その裏側で進むレイオフとデータセンター拡大、そして監視用途へのAI活用です。
この書簡は、イギリスのガーディアン、アメリカのFast CompanyやWired、インドの主要メディアなど、世界各国で大きく報じられています。
以下では、一次情報と各メディアの報道をもとに、起きていることと論点を整理します。
1. 何が起きたのか
社内グループが主導、匿名署名1000人超
公開書簡をまとめたのは、社内アドボカシーグループ「Amazon Employees for Climate Justice」です。
このグループの呼びかけに、アマゾンの従業員1000人超が匿名で署名しました。
さらに、Google、Meta、Apple、Microsoftなど、他社のテックワーカー2400人以上が「連帯署名」として加わっています。
書簡のタイトルは
「1000人超のアマゾン従業員と2000人超の連帯署名者が、責任あるAIの展開を求める」
という趣旨で報じられています。
2. 書簡が示した「3つの懸念」
書簡は、アマゾンのAI戦略がもたらしうる影響を、主に3つの領域で整理しています。
2−1. 気候とエネルギー負荷
最初の懸念は「AIインフラが気候危機を悪化させる」という点です。
報道や書簡によると
アマゾンは2040年までの温室効果ガス排出実質ゼロを掲げていますが
公表されている最新のデータでは
2019年比で排出量が約35パーセント増加しています。
一方で、経営陣は今後15年間で1500億ドル規模のデータセンター投資を計画していると伝えられています。
書簡は、こうしたデータセンターが
・水資源が逼迫した地域
・依然として化石燃料依存が高い電力系統
に建設されるケースがあることを問題視しています。
また、アマゾンのクラウド事業が、石油ガス企業向けの探鉱や生産最適化サービスを提供していることも、従業員の懸念として挙げられています。
従業員たちは、AIブームに伴うデータセンターの増設が、アマゾン自身の気候目標や世界の脱炭素の流れと矛盾していると指摘しています。
2−2. 雇用と働き方へのプレッシャー
2つ目の懸念は「AIとレイオフ、そしてノルマ強化の関係」です。
報道によれば
ここ数年、アマゾンは数万人規模のレイオフを行ってきました。
こうした動きと、AIツールの導入が重なっている点に、従業員は強い不安を抱いています。
公開書簡やメディアの取材では、次のような現場の声が紹介されています。
・AIツールの導入を理由に、生産性ノルマやKPIが引き上げられている
・コード生成や文章作成のAIツールは、結果的に人間の手直しが多く必要で、仕事量が減るどころか増えている
・AIが導入された部署で、採用抑制や人員削減が続いている
倉庫で働く労働者からは、もともと厳格だった監視や作業スピード管理が、AIでさらに強化されているという指摘もあります。
Fast Companyは、従業員の証言として
「AIを理由に、任意の数値目標を課され、疲弊している」
といった声を紹介し、AIが現場のバーンアウトを加速させているという視点を打ち出しています。
2−3. 監視と民主主義への影響
3つ目の懸念は「AIが監視と治安のツールとして使われること」です。
公開書簡は、アマゾンや他の大手テック企業が提供するAI技術が
・大規模な監視
・暴力的な治安維持
・移民の大量追放
などに使われる可能性を指摘しています。
書簡は、そうした用途を明確に禁じることを企業に求めています。
ガーディアンやWiredは
この点を「民主主義の基盤へのリスク」として取り上げています。
特に、選挙や抗議活動、移民政策など、すでに監視技術が使われている領域とAIが組み合わさるリスクがあると伝えています。
3. 従業員たちが求めた具体的な行動
公開書簡と各メディアの報道を総合すると、従業員側の主な要求は次の通りです。
- データセンターを含むAIインフラを、クリーンエネルギー由来の電力で運用すること
- AI技術が暴力、監視、大量追放などの用途に使われないよう、明確な制限とポリシーを設けること
- 倉庫を含む現場の従業員も参加する「倫理的AIワーキンググループ」を設置し
・どの部署で
・どのような目的で
AIを使うのか
について、実質的な発言権を与えること - 従業員に対し、AIツールの利用を事実上強制しないこと
このように、彼らの要求は技術仕様そのものというより
AIの「使い方を誰が決めるのか」
「どんなルールのもとで使うのか」
に重点が置かれています。
4. アマゾン側の説明と反論
アマゾンは、各メディアの問い合わせに対して公式コメントを出しています。
主なポイントは次の通りです。
・アマゾンは、2040年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを達成する目標を維持している
・アマゾンは、世界最大級の再生可能エネルギー購入企業であり、600件を超える再生可能エネルギープロジェクトを進めている
・原子力発電や小型モジュール炉への投資も行い、クリーンエネルギーへのシフトを進めている
アマゾン側は、従業員からの批判に対して
自社は持続可能性にも責任あるAIにも取り組んでいる
という立場を示し、書簡の評価や懸念には同意していないとしています。
5. 世界のメディアはどう見ているか
同じ出来事でも、メディアごとにフォーカスするポイントは少しずつ違います。
5−1. ガーディアン
「気候とAIインフラの矛盾」に焦点
ガーディアンは「急加速するAI導入が、雇用と気候を脅かす」との見出しで報じています。
・2019年からの排出量約35パーセント増
・今後15年で1500億ドル規模のデータセンター投資
こうした数字を示しながら、アマゾンのAI戦略が自社の気候目標と矛盾していると伝えています。
同時に、AIツール導入に伴う生産性ノルマの強化と、倉庫労働者の負担増についても詳しく紹介しています。
5−2. Fast Company
「AIがノルマとバーンアウトを加速」と指摘
Fast Companyは、現場の証言を中心に記事を構成しています。
・AIツールによって、達成が難しい生産性指標が設定されている
・AIが出す結果の修正に時間がかかり、仕事量が減らない
・レイオフや採用抑制が「AI導入の当然の結果」として扱われている
こうしたポイントを、従業員の声とともに伝えています。
記事のトーンは
「AIは効率化ツールとして語られているが、現場では疲弊の源にもなっている」
というものです。
5−3. Wired
「企業内アクティビズムの新しい形」として捉える
Wiredは、今回の書簡を「企業のAI戦略に対して、従業員が組織的に異議を唱える動き」として位置づけています。
・ブラックフライデー前というタイミング
・他社従業員を含む大規模な連帯署名
・AI規制や労働保護の後退が指摘される政治状況
といった背景を整理し、AI開発のガバナンスにおいて社員アクティビズムが重要なプレーヤーになりつつあると分析しています。
5−4. インドなどグローバルサウスのメディア
「ビッグテックAIへの警鐘」として報道
インドの主要ニュースサイトなどは
・AI投資とレイオフの関係
・データセンターの環境負荷
・監視用途へのAI利用リスク
といった観点から、ビッグテックのAI戦略に対する警告としてこの書簡を紹介しています。
投資家や企業向けメディアでは、社内からの抵抗がAI導入のリスク要因になりうるという視点も見られます。
6. 何が見えてきたか
事実だけを並べても、この公開書簡が持つ意味はかなり大きく見えます。
・1000人超のアマゾン従業員
・2400人超の他社テックワーカー
・気候、雇用、監視、民主主義という複数の論点
これらが1つの文書に集約され、世界のメディアが一斉に取り上げました。
ここから見えるのは
企業のAI戦略が
エンジニアや現場労働者にとっても
単なる技術テーマではなく
自分たちの働き方、地域の電力や水の使われ方、社会の監視のあり方
と直結した問題になっている
という現実です。
今回の書簡が、アマゾンの方針をどこまで変えるかはまだ分かりません。
しかし、AI開発をめぐる議論の中心に「現場の当事者」と「気候と民主主義」が同時に乗ってきたことは、確かな変化として捉えられます。
参照エビデンス一覧(URL)
The Guardian
More than 1,000 Amazon workers warn rapid AI rollout threatens jobs and climate
https://www.theguardian.com/technology/2025/nov/28/amazon-ai-climate-change
Fast Company
Amazon workers warn warp speed AI push threatens democracy and the planet
https://www.fastcompany.com/91450846/amazon-workers-warn-warp-speed-ai-push-threatens-democracy-and-the-planet
Wired
Amazon Workers Issue Warning About Companys All Costs Justified Approach to AI Development
https://www.wired.com/story/amazon-employees-open-letter-artificial-intelligence-layoffs
India Today
Over 1,000 Amazon employees warn companys rush into AI risks harm to democracy jobs and the planet
https://www.indiatoday.in/technology/news/story/over-1000-amazon-staff-warn-companys-rush-into-ai-risks-harm-to-democracy-jobs-and-the-planet-2827393-2025-11-28
Moneycontrol
AI at warp speed Why over 1,000 Amazon employees say the companys strategy is a danger
https://www.moneycontrol.com/news/business/ai-at-warp-speed-why-over-1000-amazon-employees-say-the-companys-strategy-is-a-danger-13702505.html
OECD AI Incidents Monitor
Amazon Employees Warn of AI Expansion Risks to Jobs Climate and Democracy
https://oecd.ai/en/incidents/2025-11-26-e587
News Defused
Over 1,000 Amazon Workers Warn the Companys AI Strategy is Putting Democracy Jobs and the Planet at Risk
https://www.newsdefused.com/over-1-000-amazon-workers-warn-the-companys-ai-strategy-is-putting-democracy-jobs-and-the-planet-at-risk


