身体がネットにつながる時代へ

医療の次のフロンティアとされる「身体のデジタル化」とは何か

医療の次のフロンティアとされる「身体のデジタル化」とは何か

医療の進化というと、新薬や手術ロボットを思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし今、まったく別の方向から医療を変える可能性が語られ始めています。

それが、身体そのものをデジタル化し、常時ネットワークにつなぐという発想です。
海外メディアでは、これを internet of beings と呼び、次の医療のフロンティアとして紹介しています。


何が一次情報として語られているのか

この概念を広く紹介したのが、Fast Company に掲載された記事です。
この記事は、身体のデジタル化が医療を大きく変える可能性と、同時に深刻なリスクをはらむことを、冷静に整理しています。

記事では、インターネットの進化を三段階で説明しています。

最初は、コンピュータ同士がつながった時代。
次に、モノがつながる Internet of Things の時代。
そして次に来るのが、臓器や身体機能そのものがデジタルネットワークと接続される段階だとされています。

この段階では、身体の内外に配置されたセンサーが、体温、血糖、ホルモン、臓器の状態などを常時記録し、データとして扱うことが前提になります。


医療はどう変わると説明されているのか

Fast Company が紹介する一次情報では、身体のデジタル化によって、医療のあり方が次のように変わる可能性が示されています。

まず、病気になってから治療する医療から、異変の兆しを早期に捉える医療への移行です。
体内データを継続的に観測できれば、症状が表に出る前に変化を察知できる可能性があります。

次に、医療の中心が病院から日常生活へ移る点です。
健康状態の把握やアドバイスが、通院ではなく日々の生活の中で行われるようになる、という見方が示されています。

さらに記事では、将来的には計測するだけでなく、体内で働く小さな装置が自動的に反応する仕組み、いわば体内ロボットのような発想にも触れられています。


すでに存在する近い概念

この話は突拍子もない未来予想ではありません。
すでに Internet of Bodies という研究分野が存在します。

これは、身体の表面、周囲、あるいは体内に設置されたデバイスがネットワークにつながる仕組みを指します。
アメリカの大学や研究機関では、この分野を専門に扱う研究センターも設立されています。

つまり、身体のデジタル化は、すでに研究や実験の段階には入っている領域だと言えます。


世界のメディアはどう評価しているか

このテーマに対するメディアの反応は、一様ではありません。
期待と懸念がはっきり分かれています。

期待されている点

複数のメディアは、医療がより個別化される可能性に注目しています。
日々の体調変化に応じて、生活習慣や治療方針が細かく調整される未来像です。

また、医療研究の方法が変わる可能性も指摘されています。
少人数の試験を重ねるのではなく、膨大な身体データからパターンを見つけ出す手法が中心になる、という見方です。

強く指摘されている懸念

一方で、多くのメディアが共通して挙げているのがリスクです。

身体がネットワークにつながるということは、サイバー攻撃の影響が直接人の健康や生命に及ぶ可能性があるということです。
これは、従来の情報漏えいとは次元の違う問題だと指摘されています。

また、プライバシーの扱いも大きな論点です。
身体データは、極めて個人的で取り返しのつかない情報です。
それを誰が管理し、どこまで利用できるのかについて、明確な合意はまだありません。

さらに、技術への過度な期待や誇張に対する批判的な視点も存在します。
過去にも、医療分野でビッグデータが万能だとされた時代がありましたが、必ずしも期待通りには進まなかったという指摘です。


なぜ医療の次のフロンティアと言われるのか

ここまでの事実と報道を整理すると、身体のデジタル化が注目される理由は明確です。

医療の中心が、
治療から予防へ
病院から日常へ
平均的な人から個人へ
と移動する可能性を持っているからです。

一方で、その変化は、技術の進歩だけでは成立しません。
安全性、プライバシー、倫理、社会的合意といった課題が、同時に問われます。


まとめ

internet of beings という言葉は、未来的で刺激的に聞こえます。
しかし、その中身は、医療を便利にする夢と、社会に新しい緊張を生む現実が混ざり合ったものです。

身体がデジタル化されることは、医療を日常に近づける可能性を持つ一方で、
人間の最も内側にテクノロジーが入り込むことも意味します。

このフロンティアは、技術の問題であると同時に、
どこまでを医療に委ね、どこからを人間の領域として守るのか、という問いを私たちに突きつけています。

医療の未来は、静かに、しかし確実に、身体そのものへと近づいています。


参考資料 URL

Fast Company The internet of beings is the next fronteir that could change humanity and healthcare
https://www.fastcompany.com/91452453/internet-of-beings-humanity-healthcare-medicine

EarthSky Will we digitize human bodies for healthcare
https://earthsky.org/human-world/digitize-human-bodies-for-healthcare-internet-of-beings/

Medtigo Plugging In the Human Body Hope, Hype, and Hidden Risks
https://medtigo.com/news/plugging-in-the-human-body-hope-hype-and-hidden-risks/

Purdue Center for Internet of Bodies
https://engineering.purdue.edu/C-IoB

Purdue Engineering launches world’s first Center for Internet of Bodies
https://engineering.purdue.edu/ECE/News/2021/purdue-engineering-launches-worlds-first-center-for-internet-of-bodies

RSD Journal Integration of biomedical devices and the internet of bodies
https://rsdjournal.org/rsd/article/view/48921

LevelBlue The Hidden Risks of Internet of Bodies IoB Cybersecurity in Healthcare Devices
https://levelblue.com/blogs/levelblue-blog/the-hidden-risks-of-internet-of-bodies-iob-cybersecurity-in-healthcare-devices

Naked Capitalism Internet of Beings The Dream of Digitising Human Bodies for Healthcare and the Nightmare
https://www.nakedcapitalism.com/2025/12/internet-of-beings-the-dream-of-digitising-human-bodies-for-healthcare-and-the-nightmare.html

Bio Based Press Internet of beings dream and nightmare of digitising human bodies for healthcare
https://www.biobasedpress.eu/

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