ダイナミックプライスへの規制

はじめに
近年、航空券やホテルの価格が需要によって変動する「ダイナミックプライシング」は一般化してきた。
しかし2026年に入り、この仕組みそのものを禁止する方向の政策が米国で動き始めている。
これは単なる物価対策ではない。
本質的には、AIとデータが市場価格の決定に深く関与し始めたことへの制度的な対応である。
1. 食料品の動的価格を禁止する州法案
2026年1月、米メリーランド州は
Protection from Predatory Pricing Act(略奪的価格防止法)
を発表した。
この法案はかなり踏み込んでいる。内容は次の通りである。
- 食料品店でのダイナミックプライシングを禁止
- 個人データを用いた価格決定を禁止
- 価格は最低1営業日固定
- 違反は消費者保護法違反として罰金
州知事室は、電子棚札(ESL)の普及によって
時間、天候、個人データによって価格が変動する可能性がある
と説明している。
つまり、この法律が止めようとしているのは値上げではない。
「同じ商品でも人によって価格が違う状態」そのものである。
さらに法案は、監視データを用いた個別価格(surveillance pricing)を明確に禁止対象としている。
これは単なる価格表示規制ではなく、AIによる価格決定の制限に近い。
2. 規制の広がり
同様の流れは州レベルにとどまらない。
2026年2月、米上院では
Stop Price Gouging in Grocery Stores Act
が提出された。
主な規制対象は次の通り。
- サーベイランス価格(個別価格)
- サージ価格
- 電子棚札の利用
- 顔認識による価格設定
報道では、顔認識などを用いて顧客ごとに価格を変える仕組みの禁止が検討されているとされる。
3. 規制の背景
この動きは突発ではない。
Reutersによると、
- 複数州がアルゴリズム価格規制を検討
- 19州が価格ソフトの制限を検討
している。
さらにニューヨーク州では賃貸住宅のアルゴリズム価格共謀が規制され、
カリフォルニアでも類似の措置が進んでいる。
つまりこれは一つの州の政策ではなく、明確な政策トレンドである。
4. 規制の対象は「値上げ」ではない
今回問題になっているのは価格水準ではない。
対象は
Surveillance Pricing(監視価格)
である。
これは行動データをもとに個人ごとに価格を決める仕組み。
利用可能なデータはすでに多い。
- 来店頻度
- 検索履歴
- 購買履歴
- 位置情報
- 所得推定
- 顔認識
技術的には、「支払える可能性が高い人にだけ高い価格を提示する」ことが可能になっている。
ここが従来の価格差別と異なる点である。
| 従来の価格差別 | AI価格 |
|---|---|
| 学生割引など公開ルール | 非公開で個別変動 |
| 属性ベース | 行動・推定ベース |
| 予測可能 | 不可視 |
つまり問題は不公平ではなく、
不透明性(見えなくなっていること)
である。
消費者は自分がどの価格を提示されているのか判断できない。
5. 何がこれまでと違うのか?
これまでの市場規制は次の領域だった。
- 独占禁止法
- カルテル規制
- 不当表示規制
今回初めて規制対象になったのは
アルゴリズムによる価格決定プロセスそのもの
である。
言い換えると、
AIが市場メカニズムに関与することを前提にした制度設計
である。
6. まとめ
現在同時に進んでいるのは三つの動きである。
- 技術側:AIによる代理購買(人が買う→AIが買う)
- 企業側:個別価格最適化
- 政策側:価格公平性の保護
これは単なるテクノロジーの問題ではない。
インターネット後の市場ルールを巡る最初の制度的衝突と考えられる。
航空券やホテルでは許容されてきたダイナミックプライスが、
生活必需品である食料品から規制され始めた
点も象徴的である。
市場の効率性より、社会的な公平性を優先する判断が現れ始めているのではないだろうか。
参照情報
https://governor.maryland.gov/news/press/pages/Governor-Moore-Announces-Legislation-to-Protect-Marylanders%E2%80%99-Pocketbooks%2C-Data-Privacy-at-the-Grocery-Store.aspx
https://gizmodo.com/dems-want-to-ban-surveillance-pricing-at-big-grocery-stores-2000722182
https://www.reuters.com/sustainability/boards-policy-regulation/us-states-take-aim-data-driven-pricing-ease-consumer-pain-2025-11-21/
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