EVは失敗した!は本当か?
中国で始まった「再エネ→EV→脱石油」の連鎖。
EVへの風向きが変わっている。
米国では2026年第1四半期のEV販売が前年同期比27%減少し、メーカーによる投資・生産計画の見直しも相次いだ。「EVは期待外れだった」「結局はハイブリッドが現実解だ」。そんな評価が目立つようになった。(Cox Automotive)
日本にいると、それが世界標準に感じてしまう。
けれども、批判を覚悟でいうが、これは世界共通の結論ではない。IEAによると、2025年の世界の新車販売に占める電動車の割合は約25%まで上昇した。地域によって普及速度が分かれているのが実態だ。(IEA「Global EV Outlook 2026」)
そもそも、販売の失速と、地球環境に対する技術の失敗は同じではない。
中国で起きた変化を見ると、EVを一台の自動車商品として評価するだけでは、その本当の意味を見落とすことが分かる。
産業を止めずに、運輸用石油が16%減った
2026年第2四半期、中国のCO₂排出量は前年同期比で1%減少した。これは中国政府が公表した四半期排出量ではなく、政府のエネルギー・生産統計を基にCentre for Research on Energy and Clean Air(CREA)のLauri Myllyvirta氏が算出した推計である。
1%という数字自体は確かに大きくない。だが、ここで重要なのは、中国の排出量減少の主役が初めて石油であったという事実だ。
石油消費は全体で9%、運輸部門では16%減った。一方で、地域間の旅客移動は0.1%増、都市旅客移動は2.9%増、貨物輸送量も2.4%増加した。つまり産業が同じ割合で停滞している訳ではない。(Carbon Brief/CREAの分析)
産業(特に、人やモノの移動)が止まったから、石油が減ったのではない。移動に使うエネルギーが、石油から電気へ移り始めたのである。
同じ期間にEVの充電量は前年同期比60%増えた。鉄道や地下鉄の利用も拡大し、建設・鉱山では電動機械の導入が進んでいる。特に稼働距離の長いタクシー、物流車両、大型トラックの電動化は、乗用車以上にインパクトが大きい。
もちろん、16%減のすべてがEVによるものではない。ホルムズ海峡をめぐる危機と原油価格の上昇、石油備蓄の取り崩し、不動産不況による建設需要の低下、航空需要の減少も影響した。
それでも、経済活動(交通量)を維持しながら運輸用石油が減った事実は重要だ。今の中国には、石油価格が上がったとき、経済活動(移動)を諦めなくても対応できる基盤ができていると言って良いのではないだろうか。
同時に、再生可能エネルギーも急拡大している
さらに、交通の電動化と並行して、中国では再生可能エネルギーが急速に増えている。
中国国家能源局によると、2026年6月末時点の風力・太陽光発電の設備容量は合計19.5億kW。前年同期比16.8%増えた。上半期の再生可能エネルギー発電量は全発電量の約4割を占め、風力と太陽光だけで1.2兆kWhを超えた。(中国国家能源局)
ここで、二つの変化がつながる。
再生可能エネルギーで電気をつくる。
その電気をEVや電動トラックへ送る。
移動・物流に使われていた石油を減らす。
つまり、「再エネ→電力→EV→脱石油」という新しいエネルギーの流れである。
太陽光や風力は自国内で発電できる。原油のように、産油国からタンカーで運び続ける必要がない。EVの普及は、CO₂を減らすだけでなく、交通を輸入石油から国内電力へ切り替えることでもある。
もちろん、過剰に因果関係を誇張するべきではない。中国のEVがすべて再エネ電力で走っているわけではなく、今回減った石油の全量を再エネが直接代替したとも確認されていない。
それでも、再エネとEVが同時に大規模化したことで、国内で生み出した電力を移動に使い、輸入石油を減らす「経路」が形成されたことは確かだ。
太陽光とEVは、お互いの弱点を補える
この組み合わせには、さらに大きな可能性がある。
太陽光の弱点は、晴れた昼間に発電が集中することだ。電気が余っても、需要や蓄電設備がなければ発電を止めなければならない。
EVは電力需要を増やすが、充電する時間をある程度動かせる。太陽光が余る時間に充電すれば、捨てられていた電力を移動へ振り向けられる。
さらにV2G(Vehicle to Grid)を使えば、駐車中のEVから電力網へ電気を戻せる。EVは電気を消費する車であると同時に、電力需給を調整する分散型蓄電池にもなる。
IEAは、スマート充電によってEVの充電時間を再エネの発電状況に合わせられ、V2Gは電力網の安定化に利用できると評価している。(IEA「Grid Integration of Electric Vehicles」、IEA「Vehicle-to-grid technology」)
中国でも広州、重慶などで、EVの充放電を電力網や仮想発電所と連携させる運用が始まっている。まだまだ、現時点では都市単位の実証・初期運用であり、中国全体の電力を支える規模ではないが、これは確実に拡大していく。
太陽光はEVに石油を代替する電力を与え、EVは太陽光に柔軟な需要と蓄電能力を与えるのである。
この相互補完が本格化すれば、EVは石油を減らすだけでなく、再エネを増やし、結果として石炭火力、石油火力を減らす役割も持ち得る。
しかし中国では、石炭火力が増えている
ここまでを見ると、中国では石油にも石炭にも頼らないエネルギー循環が完成しつつあるように見える。
けれども、現実はそこまで単純ではない。
2026年第2四半期、中国では再エネ設備が増えたにもかかわらず、発電部門の石炭使用量が前年同期比2.4%増えた。太陽光や風力で発電できる電気の一部が、送電網や市場制度の制約によって使われなかったためとのことである。(Carbon Brief/CREA)
どうやら、再エネ設備を建てるだけでは、石炭火力は減らないようだ。
発電地と需要地を結ぶ送電網、余剰電力をためる蓄電池、充電時間を動かす料金制度、地域を越えて電気を取引する市場、石炭火力を優先しない運用ルールが必要になるのだろう。
当然、中国はそこへの対応もしている。すでに、「電気で石油・石炭を代替しようとする段階」に入っている。しかし、「その電気を再エネ中心で『安定供給』し、石炭・石油を減らす段階」には、まだ到達していない。
今回のCO₂減少は、循環が完成した証拠ではない。その歯車が回り始めたくらいの段階なのだろう。だが、確実にその歯車は動き出している、そんな証拠が数字となって表れたのが正に今である。
失敗したのは何か? EVか、それとも「EVだけ」の戦略か
EVを一台の商品として見れば、販売鈍化、価格、航続距離、充電環境といった問題が目につく。メーカーが需要を読み違え、投資や商品戦略に失敗した例もある。
だが、EVを太陽光、蓄電池、充電網、電力市場とつながったシステムとして見ると、別の姿が現れる。
EVは、ガソリン車をそのまま置き換えるだけの製品ではない。再エネでつくった電気を移動へ送り、石油消費を減らし、将来は車載電池で電力網を支える接点になり得る。
したがって、本当の問題はEVの性能だけではない。
再エネ、EV、充電、蓄電、送電網が、それぞれ別々に整備され、一つのエネルギーシステムとして接続されていないことがボトルネックである。
必要なのは、EVへの購入補助だけではない。太陽光が余る時間の充電料金を下げる。物流拠点に太陽光、蓄電池、充電設備をまとめて導入する。商用車の運行計画と電力需給を連動させる。V2Gで得た電気を市場で取引できるようにする。使用済み電池を定置用蓄電池として再利用する。
車ではなく、循環全体を設計する必要がある。
だから——
EVの成否を、販売台数だけで判断してはいけない
太陽光とEVだけで、社会全体が石油・石炭から完全に離れられるわけではない。
航空、外航海運、鉄鋼、化学、高温の産業熱、長期間の悪天候への対応には、風力、水力、原子力、地熱、長期蓄電、水素、合成燃料、省エネなどを組み合わせる必要がある。太陽光パネルや電池の製造、鉱物採掘にも環境負荷は残る。
それでも、運輸部門を石油から切り離し、その新しい電力需要を再エネ拡大と結びつける技術的・経済的な条件は、確実に整い始めている。
だから、EVの成否を販売台数だけで判断してはいけない。
EVは、どれだけ売れたのか。
ではなく、
EVは、石油と石炭を実際にどれだけ置き換えたのか。
中国で起きた運輸用石油消費16%減は、その新しい評価が必要になったことを示している。
EVを単体で普及させれば脱炭素できる、という構想は不十分だった。しかし、再エネで走り、駐車中には電力システムを支えるという構想は、まだ始まったばかりである。
失敗したのはEVではない。EVをエネルギーシステムから切り離して評価してきた私たちの「見方」こそ改めるべきなのではないだろうか?
主な参照資料
Carbon Brief/CREA:China's CO₂ emissions fall in Q2 2026 due to plummeting oil use
中国国家能源局:2026年上半期 全国エネルギー情勢
IEA:Grid Integration of Electric Vehicles
IEA:Vehicle-to-grid technology
Cox Automotive:EV Sales Decline Slows in First Quarter of 2026


